充実シニアの「年金プラスな生活」を大公開。年金プラスの収入で、こんなに気持ちにゆとりが生まれる。仕事を通して友達ができ、生きがいももてる。健康も維持できる。たとえ稼げるお金はわずかでも、得るものは大きいのだ。(取材・文/ジャーナリスト 杉山由美子)

■食堂は仲間とつくった“みんなの居場所”

(左から)ときたまさん、飯沢さん、おかどさん。写真集食堂『めぐたま』では、定期的にイベントを開催(東京都渋谷区恵比寿)
(左から)ときたまさん、飯沢さん、おかどさん。写真集食堂『めぐたま』では定期的にイベントを開催

 写真集食堂『めぐたま』が恵比寿にオープンしたのは去年2月。お店をやっているのは、おかどめぐみこさん。写真評論家・飯沢耕太郎さん所有の写真集が壁面いっぱいの書棚に並び、食事やお茶をしながら自由に閲覧できる。木と本に囲まれた、居心地のいい店だ。

 写真を中心にしたイベントも月に数回開催。お客さんは写真好きな人はもちろん、近所の人も来てくれる。テーブル席24人、カウンター7席のお店は盛況だ。

「中学生のころから、うちに来た人に、ご飯を食べさせてあげるのが大好きでした。だから、このお店ができて、好きなことをしてお金がもらえるなんて、ほんとハッピーな66歳です!」(おかどさん、以下同)

 こうして、楽しいお店を維持できているのも、これまで築いてきたネットワークのおかげである。

「イベント担当は友人の、“ことばのアーティスト”ときたまさん。飯沢さんは、ときたまさんのパートナー。店と土地はときたまさんのお母さんのもので、私は店子です」

 写真集を多くの人に見てほしい飯沢さんと、イベントをやるのが好きなときたまさん、料理を作るのが大好きなおかどさんが集まって『めぐたま』はできた。

「お店の名前は、親友の脚本家・筒井ともみさんがつけてくれました。スタッフは以前やっていた店のときからの仲間。気心が知れているから、やりやすいです。野菜や魚などの食材は、全国の知り合いから届きます。材料を見て、何を作ろうか、と考えるのが楽しくて」

 一汁三菜の定食は、メインの肉や魚と、野菜の副菜が二品。季節感あふれる、バランスのとれた献立だ。

 一品ものには、小説や歴史本などに出てくる料理を再現したメニューがズラリ。江戸名物たまごふわふわ、亡命ロシア風鶏の煮込み、糠ケーキ……。一方、きんぴらやごま和え、おからのコロッケなど、これまでの人生で舌が覚えている味もある。料理のジャンルにはこだわらず、おかどさんがおいしいと思うものなら、何でもあり。気取りがなくて、飽きない味である。だから毎日のように通う人がいる。

「私のご飯を食べた人が、身体も心も元気になってくれるとうれしいです」

 おかどさんは実にさまざまな経歴をもっている。

「私は学校を出てからずっと働いてきたの。高校の先生、金融、発掘調査員、編集者もしたし、料亭の女将さんも、ご飯屋さんもしていました。

なのに、年金額を見たらガク然! 少ないんだもの。だから、私はこれからも働かなきゃいけないの」

 そういうおかどさんの口調に悲愴感はまったくない。なにしろ50代はじめは世界の聖地セドナ、エジプトやインドなどを3年も楽しく巡っていたというエピソードの持ち主。そんな経歴が、少々では動じないおおらかさと、応用がきく仕事に結びついた。

「お店を開くのには、食品衛生責任者講習を1日受ければいいの。だから誰でもできます。私はお店を大きくしたり、2店舗目を出したいとは思っていません。売り上げで、スタッフの給与と仕入れ、店賃などが払えて、あと、自分が暮らせるだけの収入が残ればいいんです」

 というが、誰にでもできることではない。朝9時の仕込みから夜11時過ぎまでの立ち仕事。休みは週1回というタフさ。

「私はあんまり疲れないの。休日も近くの山歩きなど、外出が多いですね」

 エプロンをつけ、いつもニコニコ。リーズナブルな値段でみんなをおなかいっぱいにしてあげるのが、心底好きなのだ。

「このお店にいるのが楽しくて。本当は、毎日24時間オープンしたいくらい! どこのお店もしまっているような深夜に、ふらっと立ち寄っても、いつでも明かりがついているお店をやってみたいですね」