■おすすめは“乳和食”“ちょい足し食事法”

 放置しておけば、死を招く低栄養だが、栄養状態をよくするだけで治るのもまた低栄養である。

 例えば、骨や筋肉のもとになるビタミンDなら、牛乳や卵を摂取すれば改善される。それらを日常的に使った『乳和食』を提唱しているのは、前出の藤原先生だ。

「乳和食とは、牛乳と和食を組み合わせた食事のこと。煮物や汁物などの和食に牛乳のうまみ成分を加えることで通常の和食より少ない塩分でコクを出せます。カツオ節や昆布だしを使わなくても、おいしく仕上がります。魚料理の生臭さを消す効果も。病院でも多いと週に4~5回は出しますが、みなさん“言われないと気づかないよ”と驚きます」

 前出の工藤先生は“ちょい足し食事法”をすすめる。ご飯や麺類など単品摂取をしがちな人に、特に効果的という。

「例えば、ご飯にシラスをプラス、味噌汁に豆腐と野菜をプラス、ざるうどんには大根おろし、ねぎ、ツナ缶をプラス、牛乳を飲むときは卵と砂糖を加えてミルクセーキにしてみる、など。面倒な調理工程がいらないので、取り入れやすいと思います」

■地域のサービスを積極的に利用する

 さまざまな食材をいただき、体重を頻繁にチェックすることによって「低栄養状態にいち早く気づくことが、やはり非常に重要なこと」と藤原先生と工藤先生は口をそろえる。2人はそれぞれ、次のような低栄養予防策をすすめる。

「最近はドラッグストアなどに管理栄養士がいることも増えていますし、医療・介護保険制度の中に、管理栄養士が自宅にうかがい栄養相談を行う『在宅訪問栄養食事指導』もあります。都道府県栄養士会が運営する地域住民のための食生活支援活動の拠点『栄養ケアステーション』が、地域の特性に応じさまざまな事業を展開しています。配食サービスも多様化しています」

 と、工藤先生。藤原先生は、

「孤独に過ごすことを避け、ご家族と離れて暮らす方は特に、地域サービスを積極的に利用しましょう。料理教室や市民のための公開講座などを病院と市が連携して行っているところもあります」

 サービスをうまく利用することで、適切な栄養相談、チェックを受けられる機会がグンと増えるという。正しい知識を得たうえで、「タンパク質を意識しながらおいしく食べ、身体を動かすことがとても大切」と説くのは佐々木先生。食べることにも身体を動かすことにも億劫にならないよう呼びかける。

〈教えてくれた先生方〉

◎佐々木淳さん

医療法人社団 悠翔会理事長・診療部長。在宅医療に専門的に取り組み患者の幸せな余生を支援。高齢者の低栄養改善や疾病予防に力を入れる。

◎工藤美香さん

南大和病院 栄養部長。病院の関連グループ全体の栄養管理を統括。著書に『早引き 介護の栄養管理ハンドブック』がある。

◎藤原恵子さん

緑風荘病院 栄養室・健康推進部主任。通院、入院、在宅すべてで同じ栄養ケアを提供することを目指し、病院内外での栄養指導に尽力。