昨年1月下旬、早稲田大学で行われた『マスターズ・オブ・シネマ特別講座』にゲストとして登壇した山田洋次監督。その席の場で、最新作『小さいおうち』についてだけでなく、今なお自身がメガホンを取る理由を語った。

「戦地で兵隊として戦った人たちはもうほとんどいない。少年少女時代に空襲を体験したり、引き揚げを体験した僕たちの世代がいなくなったら、ついに戦争の記憶がこの国からきれいに消えてしまう。そういう危機感っていうのかな、ちゃんと今話さなきゃいけないっていう危機感が、僕にはあります。なんといっても、戦争は僕の少年時代を覆った大きな大事件だし、今だって大事件。で もまだこの国は、もう1回戦争したがっているような不安すら覚えるんだけど……」

 そして駆け出しのころを振り返った。

「昔、松竹の照明部の親方が“いいか、映画会社によって撮影所のにおいが違う”っておっしゃたんです。東映で戦争を描く場合にはジェット機がバーンって落ちていく特殊撮影を駆使した映画。東宝は戦車がダーッと並んで爆弾がバンバンバンって兵隊は倒れて血だらけになって死ぬ。松竹は息子が戦死したお母さんが涙をツーッと落とすんだって。まあ考えたら『小さいおうち』も、僕なりに戦争を描いているかもしれませんねぇ」

 戦争を戦争としてではなく、戦争によって奪われる庶民の平和を描く、そんな作品こそが必要なのだと、監督は確信しているのだろう。

 講座に同席した早稲田大学国際情報通信研究科・安藤紘平教授も言う。

「『小さいおうち』は、“同性への憧れ”や“不倫”といった、山田さんとしては今まで なかったようなことをテーマにしている気がするけど、根底にあるテーマは“戦争”。人が死んだり、戦車が登場したりというシーンはないんだけど、確実に訴えかけるものがありますよね」