同時に、トランプ氏のような手法をとれば、ある程度の支持率をとれてしまうのだということを世界に示してしまった。彼のような過激な発言をする候補者は、これから日本でも増えてくるかもしれません。

ストレスの代弁者としてのトランプ氏

 人間の性質として、ストレスや鬱憤、自分が言いたくても言えない本音を、代わりにズバズバと言ってくれる対象を求めてしまうところがあります。よくぞ言ってくれた、と。

 日本のテレビでも毒舌キャラは受けていますよね。これも自分のストレスを代弁してくれる存在を求めているからです。

 もちろんテレビなどでは、いくら毒舌キャラだと言っても、何でもかんでも言っていいというわけではありません。お金をもらっている以上、スポンサーの顔色を伺って発言する必要があります。

 しかし、実業家のトランプ氏にはお金がある。政治資金を集めるために奔走したり、スポンサーの顔色を伺って発言する必要がない。言いたいことを言える環境にあるわけです。

 逆に言えば、もし他の候補者たちも自由にものを言える環境にあるのならば、トランプ氏の発言に近いところが本音なのかもしれないですよ。

 トランプ氏のことをただの馬鹿だという人たちもいます。だけど、本当にそうなのでしょうか。もし、アメリカの人たちの抱える不満を熟知していて、いま何を言って刺激すれば受けるのかということを計算したうえで、自分でお金を出すことで自由に発言できる環境を活用し、意図的に民衆をあおっているのであれば、相当頭の切れる人物だと思いませんか?

 いずれにせよ、もはやこれはトランプ氏その人ひとりの人間性といった問題ではありません。自分たちの本音を代弁してくれるトランプ氏の存在を求めざるを得ない人たちが多いという、それだけアメリカが爆発寸前の大きなストレスを抱えているという現実が問題なのです。

《構成・文/岸沙織》