多国籍団地を襲う高齢化と文化の壁

 団地を歩いてみると、文化や言葉の違いが存在しているのを目の当たりにする。立ち話で聞こえてくるのは、ベトナム語だったり、中国語だったり。

「行政は、こちらが要望すれば、多言語で看板やリーフレットぐらいは作ってくれますが……」

 と漏らすのは、いちょう団地連合自治会会長の栗原正行さん。団地ができた’71 年からの居住者だ。外国をルーツに持つ人たちが住み始めて以来、“どう仲よく暮らすか”を考えて活動を続けてきた。

「団地を所有する県は入居させるだけ。入居時にそれなりの説明会はしているのでしょうが、あとは地域でよろしく、と丸投げです。困りますよ、現実的に」(栗原さん、以下同)

 ゴミの捨て方や生活騒音などの問題が起こるたびに、地域住民が外国人に理解を求めてきた。マニュアルを作成したり、防災訓練の呼びかけを多言語で行ったり、工夫を凝らす。

「ゴミ分別や防災については、子どもが小学校で学び、それを家に持ち帰り、徐々に浸透していったのではないかな。子どもを通して、日本の生活様式を理解した親も多いと思いますよ

バイク進入禁止の看板。日本語のほか、ラオス語、ベトナム語、中国語、スペイン語、英語の6か国語で書かれている。ゴミ捨ての看板なども、多国籍な言語で表示
バイク進入禁止の看板。日本語のほか、ラオス語、ベトナム語、中国語、スペイン語、英語の6か国語で書かれている。ゴミ捨ての看板なども、多国籍な言語で表示
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 いちょう団地では、日本人と外国人との交流会も活発だ。住民たちがボランティアで運営し、自治会費で費用をまかなう。

「餅つき大会に招待したのが第1回目でした。それから毎年開催し、今年で25年になります。歌や踊り、料理といった文化と食の交流から始まりました。ベトナム、カンボジア、中国の料理を作ってもらって」

 最初は集会所が会場だったが、次第に規模が大きくなり、いまでは体育館で行われるほど。こうした積み重ねの結果、最近はトラブルもなく、日本人と外国人が平穏に共存できるようになった。自治会の役員名簿には、外国人も名を連ねる。

「外国人を巻き込んでいかないと、成り立たないんですよ。70歳を過ぎた私たちが、いつまでも活動を続けられると思っていませんし」

 団地の高齢化が進むなか、栗原さんはこう将来を懸念する。昨年春、安倍政権は、外国人労働者受け入れを積極的に推進する方針を打ち出した。しかし、その受け皿は具体性に欠ける。現状でさえ公的支援が薄く、このまま何の施策もなければ、住民の負担は大きくなるばかり。いちょう団地のように地域住民を頼る状況は、外国人定住者が多い自治体に共通している。

「外国人労働者がどこに住むかというと、公営住宅がいちばん入居しやすいでしょう。今後は、ここのような場所があちこちに現れるのではないですか。行政がフォローして当たり前だと思いますけど」

 と、栗原さん。

 例えば、移民を多く受け入れているイギリスには、生活相談にあたる公的機関『シチズン・アドバイス・ビューロー』があり、そこで外国人の対応もしている。同機関のホームページには、移民向けに法律、住宅、雇用、離婚やDVなどの対処法や相談窓口を紹介。内容の一部は中国、チェコ、エストニア、グジャラートなどの12か国語で読むことができる。また、地方自治体も移民向けに情報を発信し、相談窓口を設けている。ほかにも、同国・マンチェスター市のホームページには無料の翻訳・通訳サービスの案内や、政府の移民向けサイトのリンクを掲載している。

団地内にある旧いちょう小学校の周りには、ベトナム、カンボジア、中国、日本のイメージ画と、各国のあいさつが書かれた壁画が
団地内にある旧いちょう小学校の周りには、ベトナム、カンボジア、中国、日本のイメージ画と、各国のあいさつが書かれた壁画が