福島第一原発の30キロ圏内に新設されたふたば未来学園高等学校の入学式が8日、行われた。熱心な支援を続けてきた“応援団”の小泉進次郎氏、林修氏らも駆けつけ、新入生を激励した。この4年間の苦悩を抱きつつも、新たな一歩を踏み出す新入生たちはいま何を思うのか……。
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■彼らがいなかったら生まれなかった校歌です

 今月8日、復興の地・福島県双葉郡広野町で、県立ふたば未来学園高等学校の開校式・入学式が行われた。

 学校行事で初めて流れる校歌『ふたば未来学園の歌』。作詞は詩人の谷川俊太郎さん。同県出身のクリエーティブ・ディレクターの箭内道彦さんが曲をつけ、AKB48の総合プロデューサーを務める秋元康さんがプロデュースした。

 ♪ この故郷に根を張って目指す世界は限りない色とりどりの自然と文化支え合ういのちといのちのびやかにおおらかに ♪

 前日に行われた校歌披露会見の際、「前例なき教育環境には前例なき教育を」という理想を掲げ、開校に奔走した小泉進次郎復興政務官は、

「涙が止まんなかったね。箭内さんは、野球部が甲子園に出場した時、ブラバンが演奏しやすいようにというところまで考えて作ったそうです」

 8日、式後の取材でも絶賛。

「まだうつむき加減の子もいると思いますが、悩み苦しんでいるものを、じわっと温かく、やわらかくほぐしてくれるような校歌。生徒の大きな心の支えになると思います」

 開校式で流れる校歌を、生徒や保護者、同県の教育関係者と静かに聴いていた箭内さんは、安堵の表情を浮かべた。

「彼ら(生徒)がいなかったら生まれなかった校歌です。渡すことができて、感慨深いですね」と50年後、100年後に歌い継がれる校歌の船出を、しかと聴き届けた。

「学校行事以外でもふいに歌いたくなるメロディーですね」と記者が感想を伝えると、

「そうなんですよ。ひとりひとりがふと口ずさむっていうのが、イメージに近いかな。あとは生徒が自分自身の色に染めてくれたらいいなと思う」

■途中から、どんどん姿勢がよくなっていった

 新しい学校が東北の地に誕生したこの日、現地は真冬の寒さで、何色にでも染まる真っ白い雪が降り積もっていた。

 紺のブレザーに身を包んだ一期生152人が登校。97人が地元・双葉郡出身で8人は入学を機に県外から戻った。67人が寮生活を送るという。

 入学式で、丹野純一校長は、

「震災や原発事故で多くのものを失ったからこそ、ほかでできないことを可能にしていける。まさにこの学校は、未来への挑戦です」

 と高らかに宣言し、新入生にこう呼びかけた。

「背負いすぎないで、つながり合って、素晴らしい校歌を口ずさみながら、みなさんがひと粒の種となり、この地に根を張り、大きな木となりたくさんの実を結んでいけるよう、共に歩んでいきましょう」

 種子はまかれた。

 教職員以外にも、小泉復興政務官が呼びかけて設立した「ふたばの教育復興応援団」が生徒を支援する。小泉氏ほか前出の箭内さん、俳優の西田敏行さん、予備校講師の林修さんらが授業を行い、種子の成長にひと役買う。

 新入生代表として誓いの言葉を伝えたのは、日下雄太さんだ。思いの丈を盛り込んだ。

「“ふるさとを復興させる”という思いを実現するために、双葉郡や福島が直面する課題を見つけ、解決のために取り組まなければなりません。一期生として、10年後も100年後も誇れる伝統や校風を築き上げることを決意します」

 入学式の後は、昼食会を兼ねたレセプション。生徒有志による実行委員会が進行を務める。丸く並べられたイスに生徒や保護者、応援団が自由に座り、和気あいあいとした雰囲気が作られた。空き時間には、女子生徒たちがナイショのガールズトークを。

「彼氏いないの?」「今月で1年7か月」「私は超スピード離婚だよ、フラレたの」

 箭内さんはすでに生徒が変化していることを感じ取り、みんなにこう伝えた。

「開校式、なんとなく姿勢が悪いなと思っていて、入学式の時も、しょんぼり硬い子もいるなと思っていました。でも途中から、どんどん姿勢がよくなっていった。退場の時、ひとりひとりの顔が全然違うんですね。人間はこんな短い時間で成長できるんだな、これが明日からどんどん広がっていくと思うと楽しみです」

■私は故郷に貢献するんだという気持ちしか浮かんでこない

 フィナーレは、その箭内氏が所属するバンド「猪苗代湖ズ」の『I love you & I need you ふくしま』の大合唱。

 ♪ 明日から 新しい日々だよ 君の日々だよ I love you baby ふくしま ♪

 という歌声が響く中、肩を抱き合ったり握手をしたり、打ち解けた生徒たちの笑顔があちらこちらで弾けた。“高校生活、頑張るぞ~!”というかけ声の後、拍手はいつまでも鳴りやまなかった。

「小泉さんや有名な方々が舞台上で高校ができたいきさつや教育方針を語ってくれた時この学校を選んでよかったと感動しました」と話してくれたのは古内伸幸くん(15)。

「学校ができると聞いた時、一番前向きになれました。すごくうれしくて、すぐに受験を決めました。今日から寮生活で、家族と離れるのは少し寂しい。将来は故郷で、公務員として働きたいです」

 松本みうさん(15)は「不安もすごくあって、ドキドキしています」と吐露する一方、

「今も仮設住宅に住んでいます。この4年間、つらい思い出もあるけれど、地元から離れたい、逃げたいとは思いません。自分は故郷に貢献するんだという気持ちしか浮かんでこないんです」

 生徒の母親は「双葉の子らがまた一緒に通える学校ができたことが一番よかった。あの事故で、突然友達と離されて、悩んだりつらい思いをしたと思う。ここでまた、1人でも2人でも友達が増えれば」と、わが子を案じた。

「事故後に4回引っ越して、静岡の親戚の家にも避難しました。友達が代わるのも、地元を離れるのもやっぱり寂しかった。でも、つらさよりも、地元で頑張りたいという気持ちが強いです。復興ボランティアなどにも積極的に参加したいです」と前を向く男子生徒。

 別の男子生徒は「ワクワクしています。レスリングを専攻して、東北チャンピオンになるのが夢」とキリリ。

「家に帰れないつらさを味わいました」という女子生徒は、「スーパーに行ってもほとんど何も売っていないし……。今までできていたことができなくなるって、つらいんだなと実感しました。二度とこんな思いをする人は出てほしくないから、できることを見つけて頑張っていきたい」

 地元への愛着、復興への責任を考える152人の高校生活は今、始まった。

「今日、生徒たちの予想を上回る明るさやエネルギーを感じ学園の将来に希望が持てました」という小泉復興政務官は「一期生ってすごいと思われるように一緒に頑張りましょう。先輩はいないけど素晴らしい応援団がついているから」と力強く約束した。