「富士山は爆発するか?」

 そう頭をよぎった。

『日本沈没』のあの光景だ。

 ゴールデンウィーク、ボクは恒例の芦ノ湖のコテージにいた。毎年この季節に来ている。湖畔の見える森の中に点在するコテージで新緑はそよ風にゆられキラキラしているし森の中はあいかわらずのんびりとした時間が流れている。

 ただ違っていたのが硫黄の匂いが立ち込めていることだ。実際は硫化水素の匂いだそうで硫黄は匂わないそうだが、いつもはこんな匂いはしない。

 3日前から箱根山の大涌谷付近が立ち入り禁止になっていた。毎年の楽しみであるこの旅行も取りやめか同行の家族とも話し合ったが立ち入り禁止は半径300メートル。行くことに決めた。

 旅行初日の体に感じる地震は14回。その中で1回は「お!」と思わせるズンと突き上げるような地震だった。それにこの匂いと重なれば不安も倍増する。翌朝6時からは箱根町の放送が響き渡る。警戒レベル2に引き上げ、大涌谷につながる国道734号線の約1キロと自然深勝歩道を通行止めにしたと伝えている。やはり旅の決行は安易過ぎたかと心をよぎる。中継車がロケをしている。車もガラガラだ。なにか大変なことが起きているぞ、と肌で感じる。

 火山が噴火するかもしれないといううわさはここばかりではない。日本列島は、1000年ぶりの大地動乱の時代が始まってしまったという説もある。鎌田浩毅京都大学大学院教授によると東北地方太平洋沖地震以降、110ある日本の火山のうち20個の火山が地下で地震が起き始めていて、どの火山が噴火してもおかしくないという。

 もともとこの小さな国土のなかに世界中の7%もの火山が集まっている日本に住んでいること自体リスキーな話なのだ。大昔の人々が繰り返し行ってきたであろう並大抵ではない復興の努力が今のにほんに住む人々の粘り強い気質を生み出したのかもしれないとはるか太古に思いを馳せたゴールデンウィークであった。

芦ノ湖のコテージで娘さんと
芦ノ湖のコテージで娘さんと

〈プロフィール〉

神足裕司(こうたり・ゆうじ) ●1957年8月10日、広島県広島市生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。学生時代からライター活動を始め、1984年、渡辺和博との共著『金魂巻(キンコンカン)』がベストセラーに。コラムニストとして『恨ミシュラン』(週刊朝日)や『これは事件だ!』(週刊SPA!)などの人気連載を抱えながらテレビ、ラジオ、CM、映画など幅広い分野で活躍。2011年9月、重度くも膜下出血に倒れ、奇跡的に一命をとりとめる。現在、リハビリを続けながら執筆活動を再開。復帰後の著書に『一度、死んでみましたが』(集英社)、『父と息子の大闘病日記』(息子・祐太郎さんとの共著/扶桑社)、『生きていく食事 神足裕司は甘いで目覚めた』(妻・明子さんとの共著/主婦の友社)がある。Twitterアカウントは@kohtari