■よく聞かれる質問を本のタイトルに

 角界一の小兵ながら、立ち合いで両手をパンと叩く“猫だまし”や、相手力士の後ろまで飛ぶ“八艘飛び”、大型力士を土俵に転がす“三所攻め”など多彩な技を次々と繰り出すことから“技のデパート”、その身軽さから“平成の牛若丸”と呼ばれた舞の海秀平さん。

 これを読めば大相撲を10倍楽しめるという『なぜ、日本人は横綱になれないのか』という本を出版されましたが、なぜこのようなタイトルになったのでしょう?

「私は日本各地で講演しているんですが、この本のタイトルはどこへ行っても必ず聞かれる、いちばん多い質問なんですよ。みなさん、やはり気になっているんでしょうね。いろんな方と話をしても、いつもこの話題になります。

 それで“ハングリー精神がないから”という話になるんですが、なぜなくなってしまったんだろう、と考えたことからこの本を書くことにしたんです。僕は“なぜなぜ?”と考える癖があるんです。相撲を解説していても、この力士はなぜこういう相撲を取ったんだろう、とすぐ考えるんですよ」

 日本人横綱は、'98年に三代目・若乃花(現・花田虎上さん)が誕生したのが最後で、日本人横綱は貴乃花(現・貴乃花親方)が'03年に引退して以来10年以上おらず、日本人力士の優勝も'06年の初場所で栃東(現・玉ノ井親方)が優勝してから生まれていないそう。そんな話をうかがって番付表を見てみると、出身地に外国の国名がズラッと並んでいることに改めて驚きます。

 舞の海さんは「ここ20年くらいで力士の身体は大きくなりすぎて、立ち合いで当たってから押し相撲をする、いわゆる“あんこ型”の力士が増えたんです。それで押してダメなら引くという相撲も増えて、相撲が面白くなくなってしまった」と言います。

「すぐ諦めてしまったり、辛抱が足らないんですよね。いまの力士はまじめでやさしいんです。いまの若者もそうですが、よく表現するとやさしい。厳しくいうと、ものを考えないんです。人と同じことをしていると安心で、仲間はずれになることを恐れすぎです。それに、言いにくいことはオブラートに包んだり、辛辣なことは言いませんよね。

 昔は辛辣なことや毒舌は当たり前。もちろん相手の人格を傷つけるようなことはいけませんけど、もうちょっとユーモアを大事にしてもいいんじゃかなと思います。世の中って何でも割り切れるわけではなくて、複雑で曖昧なものなんですから。それから人間って、どっかに“遊び”がないと、発想って出てこないと思います」