こうした実態は、共産党委員長の志位和夫衆議院議員が質問で明らかにさせた。

「アメリカではイラク戦争とアフガニスタン戦争の帰還兵200万人以上のうち年間8000人、1日平均22人が自殺しています。戦死者を上回り『兵士自殺防止法』が制定されるほどの社会問題になっています」

 また、内部資料で派遣された約4000人を対象に行った心理調査があるとされ、睡眠障害などの心の不調を訴えたのはどの部隊も1割を超えて、3割を超える部隊もあるというデータをもとに質問した。

「政府は公式には派兵と自殺との因果関係について明らかにしていません。カウンセリングの詳細な資料がなかなか出てこない。きちんと国民に開示すべきです」(志位議員)

 民主党の阿部知子衆議院議員も質問主意書を出していた。自衛隊員のリスク議論の一環で出されたものだが、自殺の原因は「人事担当者等の推定」で、かつ単一回答だ。

 イラク特措法やテロ特措法だけでなく、国連の活動で派遣された自衛隊員の中でも20人が自殺している。

「洋上訓練でも自殺者がいる。船は密閉空間。陸とは違うストレスがかかります」(阿部議員)

 護衛艦『たちかぜ』では’04年10月、1等海士(享年21)が立会川駅で自殺した。遺書には上職の2等海曹を名指し、いじめを受けたことが書かれていた。

 ’08年10月、海自の特殊部隊『特別警備隊』を養成する第一術科学校(広島県江田島市)で3等海曹(享年25)が、訓練中に死亡したことが発覚。格闘訓練で15人連続の組手をしており、集団暴行が常態化していた疑いが持たれた。

「訓練中に死亡するリスクもあり、自衛隊員の命が軽んじられている。"ハードだから訓練中の死亡もしかたがない"と思われているのではないか。戦後のドイツで作られたオンブズマンのような異議申し立ての制度が必要です」(阿部議員)

 防衛省は「いじめ等の防止に関する検討委員会」を設置。だが委員は「防衛省・自衛隊関係者のみ」(阿部議員)、資料も非公表だ。自衛隊員の人権問題が改められないまま安保法制が成立すれば、海外での武力行使が想定され、新たなストレスが加わる。

 自殺や精神疾患では、医療費や休職等による経済損失が生じる。また、「家族や恋人など、愛する人が殺し、殺されることになるかもしれない」(志位議員)という新たなストレスも高まることは間違いない。


取材・文/渋井哲也 ●ジャーナリスト。自殺、自傷、依存症など、若者の生きづらさをめぐる問題に詳しい。『自殺を防ぐためのいくつかの手がかり』(河出書房新社)ほか著書多数