■子どもの顔、仕草……すべてが今しかない

 奈良時代から1300年以上にわたって雅楽を世襲してきた東儀家に生まれ、雅楽器と現代音楽を融合させた新しい音楽を生み出している東儀秀樹さんは、8歳の息子・ちっち君のお父さん。そんな東儀さんが自身の育児について綴った本書は、子育てに悩む人に“新しい気づきをくれる”と話題になっています。

「公園などでママ友と話していると、世の中の男性が子育てに全然関わっていないことがわかるんです。だから、いつもちっちと一緒の僕のことを、スゴイとか羨ましいとか言うんです。でも、僕は子どもの幸せももちろん考えているけど、ちっちと一緒にいることが僕にとっての幸せであることに、みんなあんまり気がついてないのかなと思ったんです。そこでよく質問されることを中心に“ウチではこうしてるよ”ということをそのまま綴っておくといいかなと思ったんです」

 本書には「公園デビューはいらない」「目標なんて決めなくていい」「汚れたっていいじゃない」「人には好き嫌いがあって当たり前」など目からウロコな内容がめじろ押し。育児書などは一切読まず、すべてに身体を張り、子どもに向き合って考え、ひらめいたことを本能的に信じてきたという東儀さんは「今しかないこの瞬間を楽しまないともったいない」と言います。

「子どもの顔つき、考えていること、発想、仕草って、すべて今でしかなくて、3、4年後には絶対にできないことになってしまうんです。今この瞬間の、こんなに楽しい、怒ったり泣いたりしている様子もすべて含めて愛おしい現場なんです。それを記録して、僕の記憶にとどめておきたいという思いもありました」

 子どもが泥だらけで帰ってきたりするとついつい叱りたくなってしまいますが、

「それは今しかないから、愛おしくてたまらないと思えた人は幸せですよ。それから育児書どおりにいかない、自分の子どもは普通じゃないのかしらって思っちゃうことももったいないですね」

 と東儀さん。

「愛おしいと思えると、眉間のシワから力が抜けて、かわりに笑顔が生まれてくると思うんです。“ウチの旦那が何もしなくて”と言う方がいますけど、ウチの旦那は何もしないのよね、って笑い飛ばして放っておく余裕が出てくれば、もうその家族は絆が濃いものになっていくと思います。僕も奥さんを楽にしてあげたくてやってるわけではなくて、子育てをしてみたら楽しいからやっているんです。こうした気持ちの切り替えひとつで、“あ、これ幸せじゃないか”って思えるもうひと息のところにみんないるはずなんですよ」