■飼い主が愛犬・愛猫を殺処分にする驚きの理由

 1日に350頭―。この数字、何かわかりますか? 実はこれ、日本で殺処分された犬や猫の数。1年間にして12万8241頭(※2013年 環境省動物愛護管理室調べ、以下同)。

 年々ペットの数が増加するなか、動物に対する愛護意識が高まり殺処分の数は減少傾向にあるものの、こんなにもたくさんの命が、人間によって奪われているのが現状だ。

 法律では、野良化した犬や猫、そして捨てられた犬や猫に飼い主が見つからなければ、殺処分の対象になることが決められている。

 犬・猫の引き取り数は全体で17万6295頭。保健所に運び込まれるのは“所有者不明”の犬や猫だけではない。信じられないことに、そのうち約3万7000頭近くが飼い主からの持ち込みだという(※)。

「子犬がたくさん生まれてこれ以上飼えない」

「経済的な事情で飼えなくなった」

「しつけがうまくいかず、手に負えない」

 理由は、どれも人間の勝手な都合ばかり。好きで飼ったのに、不要になれば自ら手放す飼い主たちが後を絶たないのだ。

 収容された犬や猫に残された時間はほんのわずか。保管期間は自治体によって異なるが、持ち込まれた翌日に殺処分されてしまう場合も……。致死方法は炭酸ガスや薬品の注射など。その後、亡骸は焼却処分される。

 そのつらい現実から脱却するため、精力的に活動する人たちがいる。動物愛護センターに出向き、犬や猫の引き出しを行う人。獣医と手を組み、これ以上“不要な繁殖”が増えないよう不妊・避妊治療を行う人。彼らは残酷な状況を目の当たりにしながら、“殺処分ゼロ”になる日を目指して日々、闘っているのだ。

■“犬の命”をテーマにした映画が公開

 10月31日より公開中の映画『犬に名前をつける日』では、1度は捨てられた命を全力で助ける人たちの情熱と取り組みを映し出している。

 監督の山田あかね氏は、2010年に愛犬を亡くしたのをきっかけに“犬の命をテーマにした映画を撮ろう”と思い立ち保護犬の命と向き合ってきた。

 取材は約4年も続き、収めたドキュメンタリー映像は200時間。その映像記録に女優・小林聡美を主人公のテレビディレクター役として迎え、独自の映像作品を作り出した。とはいえ、台本はなし。“命の現場”で揺れる取材者の気持ちがリアルに映し出される。

[写真]動物愛護センターに何度も足を運ぶ「ちばわん」。2015年までに5000頭の犬・猫を救ってきた。
[写真]動物愛護センターに何度も足を運ぶ「ちばわん」。2015年までに5000頭の犬・猫を救ってきた。

 関東を中心に活動する動物愛護団体『ちばわん』は行き場のない犬や猫の家族探しに従事する。動物愛護センターに出向いて犬・猫の引き出しはもちろん、里親探しの「いぬ親会」を毎週のように開催している。ここでは、ただ“飼いたい”と申し出る希望者に引き渡すのではなく、その人が本当に最後まで飼えるかどうか見極めたうえで“命の引き渡し”を行う。

 広島県に本拠地、栃木県に活動拠点を置くのは『犬猫みなしご救援隊』。2013年度からは広島市動物管理センターから猫の全頭引き出しを始め、同センターでは殺処分ゼロを更新中! 専用のシェルターを構えて1000頭以上の犬や猫を保護し、カメラは施設内にあふれ返るたくさんの犬や猫たちをとらえる。

[写真]東日本大震災発生後、被災地に向かった「犬猫みなしご救援隊」。避難所に連れ込めずに放置された犬や猫の中には、首輪につながれ身動きがとれずに命を落とした子も。
[写真]東日本大震災発生後、被災地に向かった「犬猫みなしご救援隊」。避難所に連れ込めずに放置された犬や猫の中には、首輪につながれ身動きがとれずに命を落とした子も。

 人間に裏切られ心を捨てた犬が、喜ぶことも嫌がることさえも忘れて、完全に“お人形状態”で抱っこされる映像は衝撃的だ。ここではどんなに小さな命でも受け入れ、「終生飼養」と「譲渡活動」に力を入れている。さらに獣医師なども加わり、去勢手術が積極的に行われている。

 映画には残酷な現実が描かれ正直、胸が痛む。だが、映画を見た人たちは口ぐちに言う。「私にも何かできることがあるのでは」「できることから始めてみたい」―。今、自分ができる「何か」を模索している人に“動機”を与えてくれるに違いない。ぜひ、映画を見て“関心”を持つことから始めてほしい。

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[写真]共演には、映画の趣旨に賛同した俳優・上川隆也。上川自身も保護犬の里親で、引き取った愛犬とともに出演した。

『犬に名前をつける日』

シネスイッチ銀座ほかにて全国ロードショー公開中。

(c)スモールホープベイプロダクション