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 今年4月から電力自由化がスタートする。原発事故を機に自然の力を利用した再生可能エネルギーへ期待が高まりつつある。だが、そんな発電施設の近隣に想像を絶するような苦痛を強いられている住人がいることはあまり知られていない。いったい何が起こっているのか。被害者の声を聞いた。

 風力発電をめぐり、全国では騒音などの問題が起きている。愛知県田原市の大河剛さん(47)は2014年3月、全国で初めて風車の騒音を止めるために、設置者を提訴した。

「裁判はもうとっくに終わっているよ。風車の騒音に関する基準がないから、勝てっこない」

 しかし被害状況は変わらないまま。大河さんは被害を避けるため数年前からアパートを借りて生活をしていた。

「風車によって音が出るやつと出ないやつがある。これはポンコツだよ。住民説明会では何も問題ないと話していたけど、現に聞こえているんだから。嘘をつかれたんだよ」

 記者の耳にも音は聞こえた。二重サッシの部屋の中でも外の風車の音が変わりなく耳に届く。風の強弱で音が変化し、高い音になったかと思えば低い音が聞こえてくる。

 「風車の下に30分もいてみなよ。すぐ頭が痛くなるから」という大河さんの言葉を試すため、風車の真下に立ってみた。飛行機が上空を飛んでいるような音で空を仰ぐが飛行機はいない。轟音ではないが耳障り。15分過ぎると気分が悪くなり、20分で耳が痛くなったため、その場を離れた。

 近くで農作業をしていた女性は「いやぁ、全然気にならんね。何も聞こえない」と笑顔で語る。騒音や振動などは感覚公害と呼ばれ、人によって受け止め方が違うため被害の認定が難しい。

 「世界的に見て、使用されているエネルギーの約90%が化石燃料。再生可能エネルギーは1~2%程度」と前置きしたうえで、再生エネルギーの問題点をエネルギー・環境問題研究所の石井彰代表は指摘する。

「コストが高い、安定供給が難しい。すべての電気を太陽光だけで賄おうとしたら、国土の狭い日本を太陽光パネルで埋め尽くすしかありません」

 太陽光パネルを設置するために森林を伐採し環境破壊や景観を損ねるとして住民と訴訟になっているケースもある。一時期、話題を集めた火山列島ならではの地熱発電も、各地の温泉地で「温泉の湯量が減り、成分が変わる可能性がある」と反対運動が起こる。

 太陽光や風力など二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギーは、全体の発電量から見れば少なくても取り組んでいくのが世界の趨勢。だからといって、周辺住人の生活をおびやかしてはいけない。

「大きな企業だから、何をやってもいいってことじゃないですよ。僕はただ静かに暮らしたいだけなんです」