■周囲をうかがいがちな日本人特有の悩み

 2015年2月、ひとり話芸の日本一を決める『R–1ぐらんぷり』で、芸歴5か月にして決勝進出。ホワイトボードに漢字を書き、ロジカルに説明できない日本語に対して「Why,Japanese people! Why!」と叫ぶ姿で一気に有名になった、厚切りジェイソンさん。今やすっかりお茶の間の人気者になった彼ですが、実は以前からツイッターなどのSNSで、ファンから悩みを受けつけ、独自の視点で回答してきたのだそうです。

 日本に住み、日本が好きだからこそ、「もっとこうしたらいいのではないか?」という思いを伝えたくて始めた人生相談。その中から一部を抜粋し、さらに解説を加えて上梓したのが、本書です。

「相談者は、匿名なので正確なところはわかりませんが、学生や新社会人が多いようです。ただ本を出した後は、グッと幅広い世代から悩みが寄せられるようになり、部下の扱いとか、子どもへの態度とか、そういったことも聞かれるようになりましたね」

 読み進めるうちに気になるのが、何かをやりたいけれども、やらない理由を挙げる人が多いこと。特に若い世代に顕著なようです。

「だいたいが言い訳を言った後に“でも、やりたいけど、どうしたらいい?”というパターン。でも言い訳は言い訳だから、それを削除したらやらない理由はないよね」

 また、ジェイソンさんの定番ともいえる回答のひとつが「自分で考えて自分で決めよう」というもの。

「自信がない人が多いと感じます。たぶん、日本の教育に理由があると思うんですけど……。周りと合わせる必要が子どものときからずっとあって、いざ自分で考えなければいけない状況では、合わせる相手がいないから自信を持ってこれをやりたいとか、こうやったほうがいいとか、思えなくなっちゃう。

 日本だけだとは言わないけれども、アメリカだとそういう考え方はあまりないです。みんな違っていいんだよ、個性をどんどん出していいよという教育だし、自分の意見を言う機会も多いですから」

 日本の教育のもうひとつの特徴といえば、暗記があります。しかし、もうそんな時代ではないと、ジェイソンさんはバッサリ。

「今の時代、暗記で解決するものは、知らなくてもいいんです。ネットにあるからすぐに情報を引き出せます。独自の考え方を持って意見を言える人じゃないと、仕事がなくなりますよ。暗記には、実用性がありません」

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■成功体験を積み重ね自分を信じよう!

 ジェイソンさんの回答は、厳しいようでいて前向きな精神にあふれています。例えば、日本社会では“失敗=悪”となりがちですが、それは違うと断言します。

「失敗は、正しいやり方を試している過程なんです。唯一の失敗は、欲しかった結果を得る前にあきらめること。また本の中でも言っていますが、“自分の意見が間違っていたら恥ずかしい”と日本人は思うようですが、ちゃんと理由があれば、間違っていようがいまいが、恥ずかしくないんです。間違いが直れば、それは成長なんです」

 では、周りに合わせすぎて自信がない日本人は、どうやったら自己肯定感を育てられるのでしょうか?

「これも本の中で話しているのですが、まずは簡単なことを達成することから、始めてみるのがいいと思います。ダイエットでも、“今月中に10キロやせる!”なんて宣言して、実行するのは無理ですよね。だから、“今日は5分だけ運動しよう”と決めるんです。ほとんどの人が5分なら身体を動かせるはずなので、“できた、じゃあ毎日5分やろう”と、自分の設定した目標達成に慣れていく。そして少しずつ目標を大きくしていけば、成功体験も大きくなり、徐々に自分を信じることができるんじゃないかな」

 時間をかけてコツコツ積み上げていくのかと思いきや、そうでもないのだそう。

「初日にできたことで、もう達成感がありますから、時間はかからない。三日坊主になるのが怖い? うーん、ネガティブですね(笑い)。だって、みんな歯を毎日磨きますよね? 口の中に歯が残っている人は、何かが長くできる証拠! ほかのこともできるはずなので、この方法はきっとうまくいきますよ」

 ちなみに、IT企業に勤めていながらも、SNSには懐疑的なのだそう。

「フェイスブックなどのSNSは、ニュースを広めたり、意見を発信したりにはいいんですけど、自慢大会のツールになっているのがちょっと。誰だって、カッコ悪い写真より、理想の写真をアップしますよね。そんな他人の最高の状態を、自分の最低の状態と比べてしまうのが、日本人がますます自信をなくす原因になっているのではないかな」

 自分が100%正しいとは思っていないという謙虚な姿勢を持ちつつ、意見交換や討論をし合うことによって、いいアイデアが増えると言うジェイソンさん。自分を変える、考え方を変える、精神をリフレッシュさせるヒントに、一読の価値アリの1冊です。