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 3日の衆院予算委員会。民主党の岡田克也代表と安倍晋三首相の間で、甘利明・前経済再生相の現金授受問題をめぐるこんなやりとりがあった。

岡田「安倍首相は、内閣の政策が影響を受けることはないと断言したが、何を根拠に断言するのか」

安倍「ないからです(議場で笑い声)」

岡田「断言した以上、影響しないという根拠を示すべきではないか」

安倍「ないことをないと証明するのは悪魔の証明。あるというのならば、あると主張する側に立証責任がある」

 人をバカにした答弁だ。重要閣僚が“政治とカネ”問題で辞任した直後とは思えない。政治不信がどれほど高まろうと、政策遂行に影響なしと本気で思っているのだろうか。

 甘利氏サイドが2013年から'15年にかけて千葉県白井市の建設会社S社から口利きの見返りとして現金などを受け取っていたとする問題は、1月21日発売の『週刊文春』が報じたことで明るみに出た。

 道路工事をめぐる独立行政法人都市再生機構(UR)とS社の補償交渉について、当時S社の総務担当だった一色武氏が録音テープなど数々の証拠をそろえて実名告発。

 交渉は思うように進まず、いいようにタカられた怒りがおさまらなかったようだ。金を受け取ったのは公設秘書2人と、甘利氏本人。甘利氏は大臣室で『とらや』の羊羹と一緒に現金50万円を受け取り、スーツの内ポケットに入れたという。

 追い込まれた甘利氏は「記憶を確認する」と号泣・野々村元県議のようなことを言い、文春第2弾が発売された1月28日に辞意表明。首相は辞任を認めた。国会答弁でみせた開き直りは何なのか。

 政治とカネ問題に詳しい日本大学法学部の岩井奉信教授は、「いまのところ甘利氏本人はセーフといえばセーフですからね」として次のように説明する。

「あっせん利得処罰法違反は、政治家や秘書が職務権限に基づいて影響力を行使したかどうかが問われます。甘利氏はURを所管する国交相ではない。直接、影響力を与える立場になかったんです。

 また公設秘書とは異なり、UR職員に直接働きかけた事実もない。ただし、あれほどの有力大臣になれば、ほかの大臣はみんな格下。UR側も、甘利事務所の言うことをムゲにはできなかったでしょう。その影響力を司法がどう判断するかという問題になってきます」

 同法に違反した場合、議員は懲役3年以下、公設秘書は同2年以下と罪は重い。

 補償交渉に口を出した甘利氏の公設秘書2人は辞職した。UR理事は民主党の会合で、「あっせんや口利きが何を指すか難しく、マルかバツかわかりません」と口利きを明確に否定しなかった。「補償交渉は私どもと建設会社だけでやらせていただけたら進めやすい」とも述べている。

 要するに、甘利事務所の介入は邪魔だったということ。政治評論家の浅川博忠氏が甘利氏の影響力について話す。

「現政権は“3A1S内閣”と呼ばれている。安倍首相、麻生太郎副総理、甘利氏と菅義偉官房長官の4人は、20人いる閣僚の中でも突出した実力者。閣議決定する前にこの4人で流れを決めることもある。自民党1強で首相の信頼が厚いというオゴリが甘利氏にあったのではないか。世襲議員の脇の甘さといえばそれまでだが、大臣室で大臣が業者から現金を受け取るなんて無警戒すぎる」(浅川氏)

 前出の岩井教授は、こう語る。

「仮に甘利氏が総理大臣だったら、全閣僚に対して指揮権があるので、職務権限に基づく影響力の行使にあたる」

 首相は問題発覚後も甘利氏をヨイショするぐらいだから、その威光をバックにURに睨みを効かせたかたちになる。