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 木のぬくもりを感じさせる温かみのある保育園。紙芝居を熱心に見ているのは大人たち。1月下旬に東京・調布で開かれた、憲法を学ぶ『憲法カフェ』の様子だ。

「私たちが作った王様を縛る決まりが憲法。王様が悪いことをしようとすると憲法が邪魔してできません。市民がそれをしっかり見ています」

 自民党改憲草案に反対する『明日の自由を守る若手弁護士の会』の武井由起子弁護士がわかりやすく解説していく。

 震災ガレキの広域処理に反対する母親たちに対し、政府やメディアがバッシングするのを見て、「子どもの健康を心配するお母さんを非国民呼ばわりする国は間もなく戦争が起こると思って、スイッチが入った」と語る武井弁護士自身、子どもを持つママでもある。

 この日のテーマは自民党改憲草案。まず日本国憲法の目的や特徴をおさらいする。国民主権、基本的人権の尊重、平和主義が日本国憲法の三大原則。

 なかでも要に当たる13条の条文「すべて国民は個人として尊重される」をはじめ、いまの憲法で重要視されているものの多くが、自民党の改憲草案では様変わりしているという。前文からこうだ。

〈日本国民は国と郷土を誇りと気概をもって自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する〉

 法律家の目で翻訳すると、「国民は国と郷土を守れ。基本的人権は尊重しろ。和を尊べ。家族を作れ。家族や社会で助け合え。国に要求するのはそれから」(武井弁護士)となる。

 国と郷土を守れ”という箇所から原発事故後の福島の帰還問題が見え隠れし、“家族や社会が助け合え”は、生活保護受給者へのバッシングや下流老人といった弱者切り捨ての現実と見事に符合すると指摘。

「国家権力を縛ることで国民の人権を保障する立憲主義の憲法は、世界ではスタンダードなのに、改憲案は真逆。法律家はみんなビックリしています」(武井弁護士)

 さらにホラーは続く。

「人権が縮小されています。いまの憲法18条“何人もいかなる奴隷的拘束を受けない”は徴兵制を禁じる根拠とされている条文。これが改憲案では、社会的、経済的関係以外であれば身体拘束ができるように読める内容に変化。徴兵制が憲法違反ではなくなる可能性があります。

 また、いまの憲法で人権のストッパーにあたる“公共の福祉”という言葉は、改憲案では“公共および公の秩序”に変わる。公共が指すのはみんなの権利。公の秩序が指すのは社会秩序であり、国の利益。国の都合も含まれます」(武井弁護士)

 全体に国家主義的な色合いが濃い改憲案は、集団的自衛権もOK、戦争してもOK。“象徴天皇”は“国家元首”に変わる。「日本を取り戻す」というより、戦前を取り戻すといったほうが近いような内容だ。

「憲法カフェは4回目。前回は集団的自衛権と特定秘密保護法をテーマにやりました。一昨年、武井さんの講演を聞いて、まずいなと思ったのが始めたきっかけです。子連れで憲法や政治の話を聞ける場所は稀少。同じ立場の人に聞いてもらいたいと思っています」(主催者のひとり・相川郁子さん)

 また初めて参加した荒木花梨さん(35)は、こう話す。

「子どもは1歳4か月。毎日育児で精いっぱい、余裕がない。政治のニュースもどこか遠い話みたいに思えて、えらい人が決めているんだから悪いようにはしないんじゃないかと思っていたけれど、大きなことがどんどん決まっていくのを見て不安があった。今日聞いた話を周りに伝えてみたいと思った。選挙にも関心持たなくちゃダメかな、と」