『前略おふくろ様』『北の国から』『風のガーデン』など数々のヒットドラマを世に送り出してきた倉本聰さん。大震災、原発事故、安保法案などで社会が揺らぐ中、7年ぶりの公演となる舞台『屋根』に何を込めたのか――。粉雪の舞う、氷点下の北海道・富良野に訪ねた。(最終回)

 今年1月16日から倉本さん作・演出の富良野GROUP公演『屋根』が始まった。富良野を皮切りに全国25か所を、3月まで巡演する。

『屋根』は2001年に初演した作品で、大正期に富良野に入植した貧しい一家の物語だ。納谷さんが主役の公平を演じる。9人の子どものうち長男と次男は戦死。三男は「戦争に行きたくない」と自殺してしまう。戦後は倹約第一の戦前から一転。大量生産、大量消費の世に変わる。娘の夫が勤めていた炭鉱は閉山。末息子は借金の果てに破産する。老夫婦は時代に背を向けたまま、子どもたちの捨てた古着を裂いて縄を綯い始める――。

【写真】『屋根』の初演は2001年。2009年まで115ステージを上演した。主役は根来公平・しの夫婦。富良野塾9期生の納谷真大さんが公平を演じ、実際の妻である森上千絵さんがしのを演じる
【写真】『屋根』の初演は2001年。2009年まで115ステージを上演した。主役は根来公平・しの夫婦。富良野塾9期生の納谷真大さんが公平を演じ、実際の妻である森上千絵さんがしのを演じる

 倉本さんは、一家の歩みを追いつつ、“本当の幸せは何か”と問い続ける。

「私たちの食糧を作っている農村は高齢化してどんどん疲弊していく一方です。TPPも生産者たちの意見がすくい上げられなくて、消費者の意見で全部が決まってしまう。このままでいいのかという思いがあります」

 富良野に来た当初、倉本さんはジープを駆って、廃屋を見て回った。

 農村にある離農者の廃屋はほとんど朽ちて屋根だけが残っていた。潜り込むと、茶碗や箸が散乱していたり、日めくりカレンダーが12月31日になっていたり。晩ご飯の途中で夜逃げしたのかとか、想像力がかき立てられた。

 漁村の廃屋、炭鉱の廃屋もあった。全部、かつて日本の繁栄を支えた基幹産業に従事した人たちの家。それが見捨てられた残骸だ。

 日本の行く末を憂える倉本さんがエポックメーキングとして挙げるのは、2014年12月の総選挙だ。

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「アベノミクスを表に出した自民党を圧勝させちゃったけど、その陰に安保法制とか、全部隠れていたわけですよね。世の中が逆戻りするような危うさを感じます。僕は戦争を体験した世代なので、できる限り、リアルな記憶を書いておこうと思っています。

 原発再稼働にも反対です。今回の改稿で原発事故のことも書きたかったけど、主人公夫婦が100歳を越えちゃうので、事故を予兆する悪夢として入れました」

 今作に限らず、これまでも倉本さんの創作の源には、社会への疑問や怒りがあった。

「日本人がね、何か卑怯になってきているという気がするんです。情けない日本人になってきたという、ある種の怒りがあります。ただ、いくら頑張って発言してみても、政治や国の動きにはなかなか影響が表れない。ひたすら虚しいという思いが僕のなかにはありますよ。でも、その虚しさを、書くしかないのかなと思っています。

 ただね、僕も80歳を過ぎてドーパミンが出にくくなった。舞台は体力的にもきついし、常にこれが最後という気持ちでやっていますよ」

 今後、富良野を舞台にしたテレビドラマを書くことはあるのか。

「構想はあるけど、まだ言えません。企業秘密です(笑い)」

 そう言って、少年のような笑顔を浮かべた。

〈完〉

取材・文/萩原絹代

撮影/渡邉智裕

※『屋根』の公演スケジュール等は下記のサイトで確認できます。

http://www.kuramotoso.jp/yane2016.html