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 選挙権年齢が70年ぶりに改正され、20歳から18歳に引き下げられた。文部科学省は高校生の政治的活動を制限・禁止する通知(1969年)を出していたが、廃止した。同時に、高校生の政治参加の一部を容認する通知を出した。

 文科省ではこれまで高校生には参政権がないことなどを理由に、高校生の政治活動を禁止してきた。通知を出した当時は、高校生も学生運動をしていた背景があった。

 そのため、現在まで学校では“政治的中立”を前提に、具体的な争点となる政治的課題について学んだり、市民と政治とのかかわりについて学ぶ『主権者教育』をしていない。

 しかし、選挙権年齢が引き下げられたことで、政治的中立を保ちながらも、どのように政治や選挙を授業の中に組み入れていくかが課題となる。

 こうした学校現場の要請に応えるため、東京都選挙管理委員会は市区町村選管とともに、学校に出向き、『選挙出前講座』や『模擬投票』をしている。1月25日、東京電機大学高校(東京都小金井市)で、3年生の“倫理”の授業で行った。

 島崎由紀子教諭は「1月になってから、18歳になること、大人になることについての時間を設けた。仕事や結婚の授業をしつつ、今回の選挙の話につなげました」と話す。

 とはいえ、初めてのことで、現場ではどこまでするべきか悩ましい。

 都選管の小倉由紀・広報啓発担当課長は、「学校から投票の正しい基準を教えてほしいと言われることもある。しかし、私たちが教えるのは選挙の公平性や中立性。政治を教えられない」と説明。

 選挙の仕組みをわかりやすく教えることで、「投票へのハードルが下がることを期待しています」と話す。

「20代と40代の投票率の差はどのくらいあると思いますか? 20ポイントあると思う人は赤、30ポイントと思う人は青を上げてください!」

 生徒を目の前にした小倉課長は質問する。赤色と青色が表裏になっているクリアファイルが事前に配布されており、生徒が思う回答を掲げる。

 正解は「赤」。こうしたクイズ形式の時間を終えた後、模擬選挙となる。

 まずは“立候補者”の演説だ。投票率を上げることを争点に、買い物などに使えるポイント付与制を主張したA候補者と、投票を義務制とするB候補者、有権者の自由意思に任せるというC候補者がそれぞれ公約を説明。判断材料は、その演説と会場に掲げられたポスター、選挙公報だ。

 また、ほかの人の意見も参考になるため質疑応答が行われ、その後に投票が行われた。投票には実際の“投票記載台”と“投票箱”が運ばれてくる。選管職員は本番と同じように、先頭の生徒には投票箱が空になっていることを確認させていた。

 結果、投票のポイント制を訴えたA候補者が最大の票数を得て“当選”した。

 投票箱が空だったことを確認した坂田美穂さん(18)は、「小さいころから親と投票所に行っていたので、選挙には関心がある。夏の参院選にも自分の意思を表明しようと思う」と話していた。

 また“候補者”に質問をした野中昌平さん(18)は、「選挙はあまり興味がなかったが、消費税には関心がある。強行採決はどうなのか? と思ったりする。生活にダイレクトにつながるものがあれば投票はしたい」と述べた。

 石河純花さん(18)は、「投票に行くかは、選挙のときになってみないとわからない。広報活動でわかりやすくしてもらえれば行こうと思うが、情報を集めるのは大変そう」と悩む。

 そのほか、「投票には行こうと思う。でも、情報がないし、どこへ投票してよいか自信がない」「関心があるけど、大学生活が忙しかったら行かないとは思う」などと反応はさまざま。

 授業を発案したのは大久保靖校長だ。「文科省の通知が来て、主権者教育をどうするかが私学間で議論になった。低投票率では生徒たちの年代が不利益だ。ほかの世代の声も聞きながら、何がよいのかを判断できるような人材を育てるのも学校の役割」と説明する。

 ただ、具体的な政党の情報提供は難しい。 「政治的中立の問題もある。政党について教員が伝えると、主観が入るので難しい。学校教育だけでなく、家庭教育も重要だ」(大久保校長)

取材・文/渋井哲也(ジャーナリスト)