【タイムリー連載・フィフィ姐さんの言いたい放題】5人の女性たちとの不倫関係が報じられた乙武洋匡氏。健常者と同じ土俵でこの行為を扱って良いものか、乙武氏サイドを中心にさまざまな意見が飛び交うが、いずれもその根底には、"障がい者の性"をどのようにとらえれば良いのかという問題が横たわっている。そこで今回、フィフィは障がい者の性の健康と権利を守る活動を続けている一般社団法人“ホワイトハンズ”の代表・坂爪真吾氏の意見を聞きながら、問題を整理した。

"障がい者の性"をどのようにとらえたら良いのか

 乙武さんの不倫を巡って、その友人などから「不倫は悪いことだが、障がい者だから仕方のない部分があるのではないか」「介護に近いものがあったのではないのか」といった声が上がってきています。

 いずれの声も、なんだかモヤモヤするな、という印象を受けますよね。つまり、ここで私たちは、"障がい者の性"をどのようにとらえたら良いのかという問題に突き当たっているんです。

 タレントとしての乙武さんだけでなく、一般の障がい者の方たちは、自らの性とどのように向き合っているのでしょうか。

 そこで今回はこのモヤモヤを晴らすべく、障がい者の性事情についての現状を、一般社団法人“ホワイトハンズ”の代表である坂爪さんに話を聞いてみました。ちなみにこちらの団体では、2008年から日本初となる、重度身体障がい者に対する射精介助サービスを開始しています。

介護か、不倫か

 坂爪さんに伺ったところ、障がいのあるカップルや夫婦のなかには、セックスレスで悩んでいる方も多く、その原因は、障がい云々というよりむしろ、乙武さんがその一因として“妻が母になったから”と述べていたように、基本的には健常者が抱きがちなところと大差はないそうです。

坂爪真吾 近著
4月10日発売の『セックスと障害者』(イースト新書)。障がい者の性の支援に長年携わってきたホワイトハンズの代表・坂爪真吾氏が、「純粋な天使」や「かわいそうな性的弱者」という画一的なイメージを取り払った上で、障がい者の性の現状を8つのエピソードから解説

 さらに乙武さんの場合、奥さんが婚外交渉に同意していたわけではありませんよね。その点からも、今回の件はいわゆる健常者が不倫と指すところと同じものとらえて良いのではないかとおっしゃっていました。

 では、不倫と介護とはどのように異なるのか。これに関しては、恋愛感情の有無が問題となってくるようです。

 たとえば、ホワイトハンズで実施している射精介助は、あくまでも介護の枠組み・ルールのなかで実施されているもので、食事介助や入浴介助と同じように、日常生活のなかの介助のひとつとしてとらえられているそう。

 枠組みやルールのないプライベートの関係において、性的な行為の介助をお願いする場合、どうしても個人の性的欲求や恋愛感情が勝ってしまうので、結果的にセクハラや不倫などのトラブルを招きやすくなるのだと指摘されていました。

 内閣府の障がい者白書によれば、身体障がい者の約6割の方々はご結婚されているんですよね。つまり、障がいのある人にとっても、不倫は身近な問題のひとつであることがわかります。

障がい者の不倫が批判された=健全な社会の証

 今回の乙武さんの不倫に関しては、友人サイドからの声はあったものの、障がい者だから大目に見ようといった、変に腫れ物に触るような扱いはされていませんでしたよね。

 ダメなものはダメだと、健常者と同じ目線で批判されていることが印象的でした。

 今ではタレントとして活躍されており、一般の障がい者という立場からはかけ離れてしまった乙武さんですが、当初は、障がい者と健常者の差をなくし、差別のない社会に変えていこうとする、いわば障がい者のアイコンとして活動されていたわけです。

 そんな乙武さんが今回健常者と同じ土俵で批判を受けたということは、ある意味、乙武さんの目指した、健常者と障がい者の差がない健全な価値観が広く体現されてきたという何よりの証でもあったのではないでしょうか。

《構成・文/岸沙織》