全国の大学、会社から「講義をやって」とひっぱりだこの芸人・キングコング西野亮廣さん。“仕事の広げ方”“エンタメの仕掛け方”“イベント集客”などのノウハウを型破りな視点で語り、聴衆の度肝を抜いている。
「テレビの仕事をやめる」と宣言してから10年――。漫才師、絵本作家、イベンター、校長、村長など肩書を自由に飛び越え、上場企業の顧問にも就任しちゃった西野さん。どうやって“好きな仕事だけが舞い込む働き方”を手に入れたのか。その秘密を綴った異色のビジネス書『魔法のコンパス 道なき道の歩き方』の一部を、8月12日の発売に先駆けて特別掲載していきます。(毎週金曜更新)

 箱根駅伝のランナーの皆さんは、時速20キロで走っているらしい。

 時速20キロというのは50メートルを9秒。そのペースで、ずーっと、だ。超人すぎるぜ。

 しかし、箱根駅伝のテレビ中継で語られるのは、どこの大学が勝っているのか、またはタスキが途絶えた途絶えないウンヌンカンヌンで、ランナーの超人的なスピードが語られることは、あまりない。

 ときどき、「区間記録が出ました!」とアナウンサーが叫んでいるが、あくまで数字上での話で、画面から、そのスピードは伝わってこない。どうして、あのスピードが画面から伝わってこないのだろうか?

 スピードが伝わったほうが絶対にイイじゃん。なのに、なんで?

 まず、ランナーの表情を撮るために、テレビカメラはランナーの真正面に構えている。そして、ランナーと同じスピードで後ろに下がるもんだから、どうしてもスピードが伝わりにくい。ときどき、横からのカットが入るので、その時に流れる後ろの景色で、ようやくスピードが伝わる。が、ほとんどは正面から。しかたないよね。ランナーの表情が見たいんだもん。

 というわけで、カメラ位置を咎めてもしかたない。

 ダラダラと長くなりそうなので、結論を言っちゃう。

 箱根駅伝のランナーのスピード感を殺し、箱根駅伝自体の面白さを殺している犯人は、カメラとランナーの間にいる白バイのオッサンだ。

 最高速度200キロ以上出る白バイからしてみれば、時速20キロなんてヨチヨチ歩きで、白バイのオッサンは常に余裕の表情である。汗ひとつ流さず、実に涼しそう。いや、むしろ、退屈そうだ。この期に及んで、退屈そうなのだ。

 画面から伝わるはずのランナーのスピードを殺していた犯人はコイツ。

 白バイのオッサンの表情である。ここを改善すれば、ランナーのスピードが画面から伝わり、箱根駅伝が、もっと面白くなるに違いない。では、どうすればいいか?

 答えは簡単。

 白バイのオッサンには、白バイを降りていただき、代わりにママチャリ(お母さん専用自転車)に乗ってもらおうではないか。

 自転車といえど、時速20キロで走るのは至難の業だ。しかもそのペースを維持しなければならない。当然、白バイのオッサンあらため、ママチャリのオッサンは、汗をほとばしらせ、鬼の形相になる。それでいい。それがいい。

「あの鬼の形相で激走しているママチャリのオッサンに、ついていってるってことは、ランナーはとんでもねぇスピードなんじゃね?」という算段だ。

 箱根駅伝を、より面白くするカギは「白バイのママチャリ化」だったのだ。

 超人を、超人たらしめるには、基準となる凡人の存在が必要不可欠だ。

 そんなことを考えながら、YouTubeの動画を漁っていたら、見つけてしまった『チェ・ホンマンVSボブ・サップ』のモンスター対決。

 チェ・ホンマンの身長が2メートル118センチ、ボブ・サップの身長が2メートル。“前代未聞、規格外の殴り合い”が、この試合の見所である。

 しかし、画面から、そのモンスターすぎるサイズ感がイマイチ伝わってこない。「ていうか、あの二人、本当に大きいの?」と疑いたくなるほど。その原因は、すぐ近くにあった。

 チェ・ホンマンVSボブ・サップ戦のレフェリーの身長が、ボブ・サップぐらいあるのである。

 ナンテコッタイ。レフェリーまでモンスターサイズなのだ。

 これを、どう改善すればいいかは、説明するまでもないだろう。

 こういった“取りこぼし”が、僕らの身の回りには間違いなくまだまだ残っていて、世の中はもっと面白くなる。

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《プロフィール》
西野亮廣(にしの・あきひろ) 1980年、兵庫県生まれ。1999年、梶原雄太と漫才コンビ「キングコング」を結成。活動はお笑いだけにとどまらず、3冊の絵本執筆、ソロトークライブや舞台の脚本執筆を手がけ、海外でも個展やライブ活動を行う。また、2015年には“世界の恥”と言われた渋谷のハロウィン翌日のゴミ問題の娯楽化を提案。区長や一部企業、約500人の一般人を巻き込む異例の課題解決法が評価され、広告賞を受賞した。その他、クリエーター顔負けの「街づくり企画」、「世界一楽しい学校作り」など未来を見据えたエンタメを生み出し、注目を集めている。2016年、東証マザーズ上場企業『株式会社クラウドワークス』の“デタラメ顧問”に就任。

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