maya0428

 埼玉県民が東京へ行くには通行手形が必要で、見物のために高級百貨店でも入ろうものなら「埼玉狩り」の号令とともに捕まって、百叩きのうえで強制送還される。

 こんな調子でとことん埼玉をディスるマンガ『翔んで埼玉』が、大注目を浴びている。著者は人気ギャグマンガ『パタリロ!』(白泉社)でおなじみの魔夜峰央先生。40年ほど前に刊行された作品が、昨年12月に復刊され、売り上げ部数は55万部を突破した。

「不思議ですね。描いた当時は“言葉狩り”が盛んで差別用語に厳しい時代だったけれど、批判されたこともなければ、今のようにおもしろいと言ってくれた人もなく、スルーされたくらいのもので。時代は変わりました」

 作品を描いたのは、埼玉県所沢市に4年間住んだことがきっかけとか。

「正直言って、なぜこういうものを描いたのか自分でも覚えていません。当時、町を歩いていて埼玉県民の劣等感みたいなものをなんとなく肌で感じていたんでしょう。

 田舎でもなく大都会でもない中途半端なところでのんびり暮らしているけれども、本当は東京に住みたいと。埼玉は東京との位置関係も、文化的なものに接する機会もちょうどよくて、植民地みたいなものですから」

 でも、作品の中でさんざんに描かれているのに、埼玉県民は怒るどころか55万部の3割を購入するほどの盛り上がり。上田清司埼玉県知事から「悪名は無名に勝る」と激励コメントまで届いているのだ。

「埼玉の人はすごく穏やかで、鷹揚というか伸びやかというか。私がこんなマンガを描いても自虐的に笑って許してくれますから。大好きでしたよ。日本じゅうを探しても、こんなふうに受け入れられるのは埼玉だけ。例えば、京都や奈良はプライドが高くて本気で怒るだろうし、沖縄はおおらかすぎて反応がないのでは」

 東京との関係が埼玉と似ているといわれる千葉は……?

「千葉のほうが埼玉より攻撃的なところがあるから、やっぱり怒るでしょうね。描けません。『翔んで埼玉』の中では、茨城もネタにしたんです。奥さんの出身地で、当時は結婚前だったけれどよく訪ねていたから、身内感覚で許されるだろうと思って。でも、親戚からクレームが来ました(笑)」

 それなら、ストーリーが未完の『翔んで埼玉』の続編を。

「当時は自分自身が埼玉県民で、自虐ネタだから描けたんです。でも、横浜に引っ越して、よその人間が描いたらイジメになるから描けなくなった。もうムリですね。横浜となるとおしゃれすぎてディスる部分がない。まぁ神奈川県でも横浜以外の話なら……後ろから刺されるとマズいのでやめておきましょう。コワくて描けませんよ」

 とはいえ、いまや「おしい! 広島県」、「改名。うどん県」(香川県)、「47位? 上等でございます」(茨城県)などなど、自治体は自虐PR合戦真っ盛り。ディスネタ=郷土愛。これからは埼玉県民を見習って、広い心で受け止めましょ。

魔夜峰央(まや・みねお)

 1953年生まれ、新潟県出身。'73年デビュー。'78年『花とゆめ』(白泉社)にて代表作『パタリロ!』の連載開始。スピンオフ作品を生み、テレビアニメ化されるなど大ヒット。現在『花LaLa online』(白泉社)にて『パタリロ!』を連載中。