夏休み期間を含む7~10月は、子どもが被害者になる犯罪が増える時期。でも不審者がどんな人なのか、それを子どもに見抜けというのはムリな話。危険を察知するカギとなるのは“人”ではなく“景色”。その理由とともに、危険な場所を見分けるポイントをプロに教えてもらった。

■わかりやすい不審者はいない

 行方不明だった女子中学生が今年3月、約2年ぶりに保護された朝霞市女子中学生監禁事件。

「被害者の少女は長い時間をかけて犯人を油断させ、ある程度の信用を得てから、監禁された部屋を脱出したと思われます。とても賢い。しかし」

 子どもを狙う犯罪や防犯に詳しい立正大学の小宮信夫教授は、そう問いかける。

「そんな賢い子でもだまされ、連れ去られることがある。それはなぜか。子どもが親や学校から“不審者に気をつけなさい”と教えられることに起因しているのです」

 そもそも不審者とはどのような人物か。小さな子のほとんどは「マスクやサングラスをしている人」と答えるそうだ。

「しかし、そんなわかりやすいビジュアルの犯罪者などいません。また“知らない人にはついていくな”などとも言いますが、“知らない人”の線引きも、子どもの世界ではとても曖昧。道端で2、3の会話を交わすだけでも“知ってる人”になる。

 その後に彼らは犯行に及ぶのです。例えば、“ハムスターを見せてあげる”と言って女児を団地の階段に誘い込んだり……。犯罪者は児童心理のスペシャリストでもあるのです」

■人は嘘をつく! 景色で判断しよう

 子どもの連れ去りで、強引に子どもを襲う手口は全体の2割ほど。残りの8割は言葉巧みに、子どもをだまして連れ去る。

「いきなり襲って騒がれたら、自分が逃げるか相手を傷つけるか、いずれにしてもそれで終了。だます手口なら連れ去りに失敗しても、それだけで警察に捕まることもない。そして次の機会を狙って、成功するまで繰り返せばいいのです」(小宮教授)

 犯罪者が子どもをだます手口はさまざまだ。朝霞市のケースでは、女子中学生の名前を玄関に置いてあった傘でチェックし、名前を呼んで知り合いを装った。一昨年、北海道札幌市で小3の女子が7日間監禁された事件では、警察官を装って買い物帰りの女児に“万引きをしただろう”“ゆっくり話を聞くから”と声をかけ、自宅に連れ去ったという。

 このようなウソを子どもが見破るのは、ほぼ無理だろう。同時に、子どもたちが教わる防犯ブザーを鳴らす、大声で助けを呼ぶ、走って逃げるといった訓練は使う場面があまりないといえる。

「子どもの防犯で大切なのは、どうすれば未然に防ぐか=だまされずにすむか、ということ。それには自分が今、いる場所の景色を見て判断するしかない。なぜなら人はウソをつきますが、景色はウソをつかないからです」

 犯罪者には好きな場所と嫌いな場所がある。それを子どもにしっかり教えておけばいい。“自分が今どこにいるのか”と周りの景色を見渡せば、そこが危険な場所なのかがわかる。

「もし犯罪者の好む場所だったら“この人は自分を狙っているかも”と推測し、警戒できる。8割の犯罪はそれで防げます」(小宮教授)

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■子どもに教えるのは犯罪者の好む場所

 犯罪者が好きな“入りやすく、見えにくい”場所。それが危険な場所となる。

 わかりやすい例を挙げると、車道と歩道との間にガードレールがない道だ。ガードレールは子どもが車に乗るにも、連れ込むにしてもジャマになって時間がかかるため、ガードレールのない道のほうが犯人にとっては“入りやすい(連れ去りやすい)”場所である。

 もし車に乗っている人に道を尋ねられ、ガードレールのある場所に車を止めていたなら、きちんと教えてあげればいい。ない場所に停車していたら「すみません、急いでいます」と立ち去ればいい。

「子どもに危険な場所の特徴を教えるのは難しいと感じるかもしれませんが、買い物や遊びに出かけた先で、実際に多くの場所を見せ、子どもに考えさせる。これなら3~4歳でも理解できます。ニュースで子どもの事件を報道していたら、現場の景色が映ったときに危険なポイントを話してあげましょう。

 また、子どもたちが自分で街を歩きながら、地域安全マップを作ることもおすすめしたい。夏休みの自由研究にもいいですよ」

 子どもには“危険な場所”を通らないように教え、親が同伴している時でも避けること。

 もっと根本的にその危険な場所を改善したいとなれば、親同士が協力して自治体にはたらきかけたり、そこを重点的に見回る“ホットスポットパトロール”を行えば、さらなる安全を目指せるはずだ。

 日本の防犯は“人物”に注目しがちだが、こうして“場所”に注目する『犯罪機会論』をもとにした対策は効率的で欧米では主流だという。事実、神奈川県藤沢市では市議会、行政とも「犯罪機会論」に理解を示し、それに基づいた対策を実践して効果を上げているとか。

「子どもにとって安全な街は、引ったくりや空き巣、性犯罪、ストーカーなどの犯罪も少なく、大人にとっても安全です」

◎プロフィール

立正大学文学部教授・小宮信夫さん。法務省の研究所や国連の研修所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。全国の自治体などに、子どもの防犯アドバイスを行う。『犯罪は予測できる』(新潮新書)ほか著書多数。