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*写真はイメージです

 震災直後から被災地入りしてシングルマザー家庭への支援活動を開始。現在は陸前高田、大船渡(ともに岩手県)、気仙沼(宮城県)を拠点に、仮設住宅などで 暮らすひとり親家庭200世帯へ食糧支援などのサポートを行っているNPO法人『マザーリンク・ジャパン』代表の寝占理絵さん。

 冷たい雨がそぼ降る夜9時近く。寝占さんは、とある仮設住宅の集会所へ急ぐ。ここに住む星佳子さん(40=仮名)を訪ねるためだ。

 星さんは、中学1年の長女と小学5年の息子を抱えるシングルマザー。9年ほど前に協議離婚した。

 現在は仮設住宅に住みつつ工場でパートとして働いているが、収入は月に10万円あればいいほう。

「10万円もらえる月は数えるほどです。年末年始や子どものインフルエンザで仕事を休むと、8万~9万円がいいところ」(星さん)

 あとは児童扶養手当と児童手当が収入源。実家は津波で流され、仮設暮らしの親に頼ることはできない。

 星さんにとって、クレジットカードのキャッシング枠が頼みの綱だという。

「子どもの部活などで5000円、1万円と必要になると、ついキャッシングしてしまいます。被災者向けの支援制度はありますけど、手続きが大変。すぐには貸してくれませんし」(星さん)

 生活保護をすすめられたこともあるが、星さんは頑として首を縦に振らない。すぐ近所の噂になるからだ。

「子どもたちと出かけても買い物に出かけても、“生活保護を受けているくせに”と言われてしまい、何もできなくなりそうで……」(星さん)

 そんな星さんだが、困り果てた末に、1度だけ相談に行こうと思い立った。しかし、生活保護の相談窓口を置く役所では、子どもの同級生の親や親戚が大勢働いている。足を向けたものの、とうとうドアを開けることはできなかった。

 “何か困っていることはありませんか?”と書かれたチラシがポストに投函されることもある。たいていはカウンセリングや法律相談の案内だが、やはり星さんが頼ることはない。

「せっかく相談会を開いてくれるのに誰も集まらないんじゃ悪いと思って、カウンセリングへ行ったとき、カウンセラーの人に“なんで子どもを父親に会わせないんですか?”と言われました。元夫が今どこにいるかさえわからないのに」

 行政や支援団体が用意したサポートと、シングルマザーが求めるニーズとが結びつかない現状がある。

 今、星さんが希望を見いだしているのが、マザーリンク・ジャパンが立ち上げた在宅ワークの仕事だ。

 シングルマザーにパソコンを覚えてもらい、プラスアルファの収入を得てもらおうという試みで、昨年スタートした。現在の仕事内容はデータ入力が中心。

「とりあえず時給1000円、1日1時間で月3万円稼げる状態を目指してほしい」(寝占さん)

 寝占さんに依頼され、アンケート調査の結果を入力する仕事をこなした星さんが言う。

「できる自信がなかったので、最初はお断りしていたんです。だけど最近は、家でちょこっとずつでもできて、1000円でも2000円でも稼ぐことができるならと思って、やっています。これなら子どもたちのそばにもいられます」

取材・文/千羽ひとみ