つまり、敬意を抱いているということ。恐怖におののくだけの怪談話とは結末が異なり、どこか温かみがある。

 実は記者も、石巻周辺で幽霊の目撃談を耳にしたことがある。震災の遺族から直接聞き、リアクションに困った。あらためて石巻駅でタクシー運転手に聞いた。

「南浜町の工事現場に男の幽霊が立っているらしい。霊感の強い人は昼間でも見えるって」(60代の男性運転手)

「自分で死んだことに気づいていない幽霊が沼の縁に現れる」(50代の男性運転手)

 40代の男性運転手の案内で南浜町に向かった。

「震災翌日、火の粉と煙で空爆されたみたいだった。身内をここで亡くしたので、どうしても来たくなる。でも来ると具合が悪くなる」(運転手)

 旧北上川にかかる日和大橋に向かった。大きなアーチがかかった高さのある橋だ。

「震災時は大渋滞して、津波がきたとき橋の上に止まっていた車だけ助かったという。高い橋なので津波をかぶらなかった。それで橋に登ろうとする霊さん(幽霊)が出るようになって、一時、夜間通行止めになりました」

 別の橋では乗客から「この橋は幽霊が集団で登って来るから渡らないでくれ」と頼まれたこともあるという。

 幽霊を乗せたタクシー運転手から話を聞くことはできなかった。しかし、幽霊を「霊さん」と呼んだり、「さまようのもわかる」などと理解を示す運転手が多かった。

 工藤さんが聞き取りした運転手は「幽霊が出たら、また乗せるし、普通のお客さんと同じ扱いをする」と話した。なぜ、石巻のタクシー運転手は幽霊に畏敬を感じるのか。工藤さんは考察する。

「ドア・トゥ・ドアの役割を担い、震災を理解し、同郷の地域愛があるから」

 タクシーは客を選ばず、個室空間でどこへでも連れて行ってくれる。

 大切な人にもう1度会いたい。夢でも幽霊でもいい。この世では、2度と会えない人とそうやって会おうとする。大切な人と会う夢を見ることができた朝は、夢から覚めても満足感が残ったりする。

 あの世でも、それはきっと同じだろう。