「今までの死に装束は、和服もドレスも生地がペラペラ。ドレスメーカーのものであってもデザインが今ひとつ。こんなのイヤだな、いつか自分で作りたいなと思っていたころ、友達のご主人が亡くなりました。

 葬儀の際、棺の中のご主人を見ると、なんとタイガースのユニホーム姿! その瞬間、生前のご主人の素敵な人生が鮮明に浮かびました。“死ぬときこそ、好きなものを着たいはず。私は故人の人生を映すドレスを作りたい!”と思ったのです」

 そんな杉下さんの渾身の作品が、母のための“ハリウッドドレス”だ。現在、アルツハイマー病を患う母に、どんなドレスを着たいか尋ねると“かわいいの♪”とひと言。

 それなら思いきりかわいいものを……と、母が大好きなグレース・ケリーやエリザベス・テーラーなど“ハリウッド女優が着るウエディングドレス”をイメージして作製。その製作費は100万円を超え、「さすがにやりすぎた感はありますね」と笑う。

 杉下さんの作るドレスは、どれも“寝ているとき最高にきれいに見える”のがこだわり。寝ていると首が詰まるので、襟を少し起こす。やせてしまった脚のラインが出ないよう、ドレスにチュールを入れて張りを出す。デザインだけでなく、シルエットも上品に見えるよう、細心の注意をはらう。

「ドレスは急を用する方もいるので、セミオーダータイプも用意しています。例えば、お花が好きだった方には花柄の布でポイントを入れるなど、その方の世界観が出るように作れますよ」

 セミオーダータイプも人気が高いそうだ。着る本人が意識のあるうちにオーダーに来るのか、または作ってあげたいという家族が来るのか。まだ広くは知られていない死に装束用ドレスだけに、どんな人たちがどんなタイミングで来店するのか。前出・三隅さんが教えてくれた。

「ご家族がいらっしゃることが多いですが、さまざまです。印象深かったのは、生まれてこのかた、ずっと病院を出たことがない女性のお母様。その方自身もご病気で、人工透析をしていました。『ラストドレス』発表会が地元新聞に取り上げられたのを見て“これだ!”とひらめいたそう」

 この女性は洋裁ができ“自分もドレスを作りたい”と来店。ドレス作りを教えるわけにもいかず、ほかの顧客にも迷惑がかかると判断、丁重に断った。だが女性は何度も来店しては、ドレスを眺めて帰る。見かねた三隅さんが話しかけると、

「“もし自分が死んでしまったら、遠い病院に預けたまま、お嫁にも行けなかった娘に何もしてやれない。どうしてもウエディングドレスを自分の手で作ってあげたい”という理由がおありでした。

 私はどのようにお手伝いできるか悩みましたが結局、ドレスの素材を提供し、娘さんの肌に触れる部分を手作りしていただきました。納得いくものを差し上げたかった私は、ドレスの上に羽織るブラウスとブーケを作りました。ドレスが完成したときは、本当に喜んでくださったのを覚えています」