安保法反対活動を続ける富山さん

 3月29日、安全保障関連法(以下、安保法)が施行される。自衛隊の任務は「専守防衛」から地球のどこでも「交戦」することが可能になった。

 一方で、今年の防衛大学校の卒業生419人のうち、任官拒否者は、昨年の倍近い47人。これが安保法を意識してなのかは推測するしかないが、正面から安保法への不安を訴える自衛官はいない。そんななか、息子を自衛官にもつ父が立ち上がった。

 毎週木曜日の夜。福岡市の商業施設「天神コア」前で、富山正樹さん(52)は「愛する人を戦地に送るな!」とのメッセージボードを持ち、反戦、反安倍政権を訴えている。

 安保反対を訴える人は各地にいるが、富山さんが違うのは、自衛官の息子を安保法で死なせたくないとの思いを抱いていることだ。

 富山さんの次男は2年前の2014年4月、20歳で自衛隊入隊を希望する。だが、安倍政権の動向を意識していた富山さんは入隊に反対した。海外派兵されたら誰かを殺し、殺されるかもしれない。

 生きて帰っても心に傷を負って生きる。それを次男に伝えた。だが、就職難も一因なのか、次男は入隊した。

 はたして、入隊直後の'14年7月には憲法解釈で集団的自衛権が容認され、安保法案は昨年7月16日に衆議院、9月19日に参議院を通過し成立。富山さんが、「声を出さねば後悔する」との焦燥にかられたのはその7月だ。

「息子が、同意もしていない海外での交戦に参加するのか。冗談ではないと思いました」

 衆議院通過2日後の7月18日、仕事場の近くでもある小倉駅前にひとりで立つ。“命を守る一人のスタンディングアピール”と名づけた行動だったが、初めは人目が怖く、小さく話すだけだった。ほとんどの人が通り過ぎていく。

 だが少数であれ、耳を傾ける人、「父が自衛隊にいる」との不安を訴えた女の子などに会ううち、「話してこそ伝わる」と、いつしか堂々と声を上げるようになっていた。

 富山さんは「平和も教育も福祉もすべて同じ根っこでつながっている」と、反戦だけで話さない。3月17日夜、天神コア前でこう訴えた。

「『保育園落ちた 日本死ね』とのブログを自民党が批判した途端、『保育園落ちたの私だ』とのボードを持ったママたちが国会前に集まり、国会で保育の充実が議論され始めました。文句を言えば政治は変わるんです。例えば、『特養落ちたの私だ』とプラカードを持ちましょうよ。状況を変えていきましょう!」

 ひとりぼっちで始めた闘い。だが、その行動がツイッターで知れると、次々と賛同者が現れ、今では常時20人前後が参加する。名称も“命を守るみんなのスタンディングアピール”に変わった。誰もがこの国の政治をよくしたい一心でマイクを握る。

 池天平さん(34)は「パートのおばちゃんたちの時給1500円の実現を!」と訴え、市民団体『みんなで選挙ふくおか』で活動する上戸洋子さんは、反戦集会のチラシを配り「黙っていたら戦争を認めることになる。まずは野党の円卓会議着席を実現したい」と語った。

 仲間たちはクリスマスイブにも集まった。富山さんは「こんな日に! これぞクリスマスプレゼントです」と涙し、訴え続けることを再決意した。

 次男は父の闘いを知っている。だが、たまに会っても何も語らない。日米合同訓練で米軍側から「女も男も区別せずに殺せ」との指示を受けた自衛官に会ったことを、次男に伝えた。「おまえも同じ命令を受けたらどうするのか?」と。次男は沈黙した。

「暗黙のイエスです。自分の意見を言わないことが自衛隊では楽なのかもしれません」

 親にも心の内を見せない自衛隊員。

「だからこそ、本人たちの気持ちを推し量って、声を上げるのは私たち父母なんです」

 と富山さんは訴える。だが、父母たちもまた沈黙している。1人を除きーー。

取材・文/樫田秀樹