覚せい剤などの薬物事件で逮捕される人は、1997年がピークで2万人以上だったが、ここ数年も毎年、1万人以上が逮捕されている。覚せい剤を使うと、人はどうなるのか?

 脳の中枢神経を興奮させ、気分が高揚し、寝なくても、食べなくても平気になる。特に覚せい剤を使ってセックスをすると快楽の度合いが高く、2度と忘れられないとも。

「覚せい剤は興奮剤ですから、使用すると、まず気持ちが高ぶり、全身に汗をかき始めます。少量であれば、目が覚めて朝まで寝られない程度の症状ですみますが、たくさん摂取すると極度に興奮し高熱が出るのが特徴です」(毒物学の研究をしている昭和大学薬学部の沼澤聡教授)

 これが使用し続けることで脳の機能が完全に壊れてしまい、幻聴や幻覚などの慢性症状がしばしば出てくるという。

 さらに、覚せい剤をやめてしばらくたった後でも「フラッシュバック」という症状に悩まされるというのを耳にしたことがある人も少なくないのでは。

「例えば、ストレスや強い光に当たると、乱用していたころの精神状態が再現されることがあります。一定期間、薬をやめれば見かけは正常に戻っているように見えますが、覚せい剤を使用していたころに構築された精神の異常なネットワークはなくならず、何らかの刺激によってその回路がつながり幻覚や幻聴などの症状が出るようになります」(沼澤教授)

 そんな恐るべき覚せい剤だが、知り合いに暴力団関係者や密売人がいなくても、どうやって手に入れることができるのか。

「今はネットで誰でも買うことができます。密売人と知り合いでなくても買えます。それが今の社会なんです」(薬物事件を手がけてきた小森榮弁護士)

 現在の相場は、1グラム3万~4万円ほど。1回の使用量はだいたい0.03グラムといわれる。

 入手のハードルは低くなり、一向になくならない覚せい剤という“悪魔の誘惑”。自分自身は決して手を出さなくても、もしかしたら夫、もしくは自分の子ども、さらには友人など身近な人が手を出してしまっていたら、まず私たちは何をすべきか。

「全国にある『精神保健福祉センター』という公的な相談機関に行くのがいいでしょう。全国どこのエリアにもありますので。世間の目が気になるかもしれませんが、早めに相談することが大事です」(小森弁護士)

 始まりは誰でも軽い気持ちで覚せい剤に手を出してしまうというが、1度でも手を出すと、逃れられないのも覚せい剤の恐ろしいところ。2度と覚せい剤にかかわらず、立ち直らせるために必要なことは?

「家族や周りの人の理解や協力、それに本人の努力や意思、気持ちが大事です。でも、覚せい剤さえやめればすべてが元どおりになる、というわけではありません。規則正しい生活を送る、悩みやトラブルを解決するなど、生活を正すことで、自然と薬物は遠ざかっていきます」(小森弁護士)