■政治を信じられないのなら、信じられるように行動してください

 大量生産・消費社会に一石を投じたスピーチは各国首脳の心を打った。2013年と'14年にはノーベル平和賞にノミネート。

 この演説を取り上げた絵本『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』(汐文社)が話題となり、発行元の出版社の招きで来日が実現した。

 高齢にもかかわらず、8日間で東京、京都、広島を回る日程。「日本に来て広島を訪ねないのは敬意に欠ける」と組み入れたという。講演ではさまざまな問題に言及した。政治不信についてはこう述べた。

「日本の選挙では、若者の30%ぐらいしか投票に行かないと聞きました。政治を信じていないんですね。でも信じられないのなら、信じられるように行動してください。何もしないで不平ばかり言っても変わりません。同じ考えを持つ人と、まとまって行動する必要があります」

 世界的なニュースとなっているパナマ文書にも触れた。

「自分の資本を増やすためだけに、タックスヘイブン(租税回避地)を使ってお金を動かしている人がいます。みなさんのような若者は闘わなければいけません。バカげたことをやめさせるために」

■つらい時期にこそ、多くの大切なことを学べました

 母国ウルグアイでは愛される大統領だった。首都郊外の貧しい家庭に生まれ、7歳のときに父親が死去。幼いころからパン屋さんや花屋さんで働いた。独裁政権に対抗したゲリラ活動で4度投獄され、最後の刑務所暮らしは13年に及んだ。

「踏みつけられたり、ゴミのように扱われたこともありました。しかし、このつらい時期にこそ、多くの大切なことを学べました」

 上院議員であるルシア・トポランスキ夫人(71)とは、1970―'71年ごろゲリラ活動を通じて知り合い、ほどなくパートナーとして行動をともにするようになった。2005年には正式に結婚した。

 大統領に就任しても公邸に住まず、郊外の小さな家で畑を耕し、犬やニワトリと暮らした。友人たちからプレゼントされた古いフォルクスワーゲンで国会に通った。

 来日前の朝日新聞の取材に対し、アラブの富豪から「愛車を100万ドルで売ってくれ」と打診された事実を明かした。ムヒカさんは「贈り物は売り物じゃない」と断ったという。

 この日の講演には、同型のワーゲンで登場。熊谷ナンバーだったので実物ではないようだが、粋な演出に出迎えた学生らは大喜びだった。

■ほかの人にも何かできたら、家族との時間をもっと幸せに感じるでしょう

 講演の中では恋愛論や夫婦論も披瀝した。「大事なのは愛です」と繰り返すムヒカさんに男子学生が質問した。