――美しい女性がいたとする。彼女を手に入れたい。ほかにも狙っている男がいる。僕は彼らをいかにして倒すかってことを考えてしまう。ムヒカさんは言った。

「あなたの愛に対するビジョンは非常に個人主義的だと思います。自分のものにしたいという。でも、彼女に聞かなきゃいけないんじゃないですか。あなたに征服されたいと思っているかどうか」

 男子学生の「手に入れたい」という言い方がまずかったようだ。さらに続けた。

「女性が選ぶんですよ。自分だけが決められるなんて思わないでください。彼女は無意識かもしれませんが、生物学的に選びます。誰と子孫を残したほうがいいか、と。自然界のメカニズムとして本能に刻まれているんです」

 エゴイズムをどう抑え込めばいいのか。生きていれば誰にでも葛藤はあるという。

「家族を守るために闘うのは当然です。だからといって、ほかの人のために何もできないということはないですよね。ほかの人にも何かできたとしたら、家族との時間をもっと幸せに感じるでしょう」

■人生をひとりで歩まないでください

 家族論は熱を帯びる。ルシア夫人は会場で静かに聞いている。

「私はパートナーと、世界をよくしようと思って一生懸命闘ってきました。それで子どもを持つ時間がありませんでした。私たちは小さな地区に住んでいます。多くの子どもがいます。経済的余裕のない家庭の子どももいます。

 私たちはそういった子どもも勉強できるように学校を建て、国にプレゼントしました。私たちは子どもをつくることはできなかったけれども、親がいなくて勉強できない子どもたちの力になれた。彼らは私たちにとって子どもなんです」

 ムヒカさんの考え方はシンプルだ。消費社会に支配されてはいけない。節度を持たないと人生を楽しむ時間を奪われてしまう。

 誰かに手を差しのべる時間もなくなる。人間は人生の方向づけができる。挫折してもまた立ち上がればいい。自分自身を幸せにするものを探してほしい。

 スペイン語専攻の同大4年・太田悠香さん(22)は講演後、「もっと幸せを追求して生きていきたいと思うようになりました」と話した。ムヒカさんは言った。

「毎晩、ベッドに入ったときに5分間使って、1日を振り返ってみてください。よかったのか、悪かったのか。それをもとによりよい明日を築いてください。そして、ぜひ家族を持ってください。単純に血のつながった家族ということではありません。同じように考える人という意味の家族です。人生をひとりで歩まないでください」

 力強いメッセージは学生の心に届いたのだろう。拍手はいつまでも鳴りやまなかった。