保育士を天職と言い切る幸田晴彦さん(26=仮名)は、この仕事に就いて4年目。前年度は年長組を受け持ち卒園児を送り出した。保育士でなければ経験できない、貴重な瞬間に立ち会えた。一生続けたいと思う。だが、今年度いっぱいで退職を考えているという。

「そろそろ結婚を考えています。子どもが好きで保育職に就いたぐらいだから、わが子が欲しいという気持ちは人一倍あります。もし生まれてきたら、わが子の幸せを第一に考えたい。そう思うと現状の待遇では辞めざるをえません」

 幸田さんのような若い保育士のなかには、働きながら奨学金の返済をしている人もいる。

「生活費にすら困窮している状態だと思う」

 続けたいけれどやむなく辞めていくのだ、と幸田さんは嘆く。

 こうして保育士の人手不足は常態化する。保育士の川谷美津子さん(40代=仮名)が働く園では、辞職を願い出た20代の保育士を引きとめるために、こんな騒動があったという。

「今辞めたらもったいないと引きとめた園長が“どこでも好きなクラスをもたせてあげるから”と言い出した。ベテラン職員にしてみればおもしろくない。一触即発の雰囲気になりました」

 その保育士が辞めたくなった理由は「学級運営のつらさ」にあった。

「彼女の担当クラスにはADHD(注意欠陥多動性障害)の子どもが4人いたんです。通常は2人程度ですが、ほかにも先生の言うことを聞かない子どもが多くて」(川谷さん)

 事務作業の負担も大きかったようだ。

「親への連絡帳を書くのはうちの園では1、2歳の乳幼児までですが、発達障害のお子さんがいるクラスは5歳まで、担当職員が書き続けなければならない」

 事務作業のストレスは前出・永沢さんも感じるところだ。

「記録や工作などの持ち帰り仕事が多いんです。子どもたちのお昼寝の時間にやろうとしても、園庭の草をとったり、お便り帳を書いたりで時間がない。45分の休憩時間も、ササッとお茶をすするだけ。余裕がない。有休も取りづらいし会議も、土曜出勤もある。すると家でやるしかない」