テレビ東京は、『Youは何しに日本へ?』『元祖! 大食い王決定戦』など、タレントではなく一般人が主役になる名番組を多数輩出していることでも有名だ。なかでも注目を集めるのが、4月からゴールデン(毎週土曜19:54~20:54)に進出する『家、ついて行ってイイですか?』だ。同番組の演出を担当する高橋弘樹プロデューサーは、「一般の方々を起用する手作り感で勝負するしかない」と語る。

「テレビ東京の宿命なのですが、他局に比べて本当に金も人も少ない。そもそもテレ東は、全国放送ではないですからね。売れっ子のタレントさんになればなるほどスケジュールの確保は難しくなります。空いているスケジュールに、テレ東と他局双方からオファーがある場合、僕がタレント事務所の経営者なら迷わず他局を選びます(笑い)。競争条件として受け入れなければならない事実であり、我々はそれに勝るものを作らないといけません。

 ですから、僕らは一般の方であったり、まだ発見されていない、才能が眠っているタレントさんと一緒に番組を作るしかない。そのためディレクターをはじめ、スタッフの創意工夫が求められていきます。この作業というのは、まさに産みの苦しみだから、本当に苦しい。正解や前例が容易にあるものではないので。でも、それを乗り越えないことには、うちは他局に太刀打ちできないんですね」(高橋氏、以下同)

 タレントの力に頼れない分、テレ東は作り手の育成力が伸びていく……伸ばさざるをえないわけで、結果としてそれがテレ東特有の“手作り感”を誇る、多くの優良番組を生み出すことにつながっているという。

「タレントさんに頼らない手作り感を得意とする上司は多かったですね。僕も新人時代はそういった薫陶(くんとう)を受けてきました。裏を返せば、僕らはタレントさんとの向き合い方が不得意とも言えるんですけどね(苦笑)」 

 とはいえ、一般人をメインにした番組は、似たような雰囲気を持つ他局の番組を寄せ付けないクオリティを持つ。気のせいかもしれないが、素人をフィーチャーしたテレビ東京の番組は、彼ら彼女らを無駄にいじったり、馬鹿にするような演出をしていない印象を受ける――。

「僕が『家、ついて行ってイイですか?』でいつもディレクターさんにお願いしているのは、その人の人生を、まずは肯定するスタンスで取材をしてほしい、ということ。いわば“肯定力”です。

 というのも、テレビ東京は本当にしょぼいテレビ局なんです(笑い)。テレビ東京に入局して間もない頃は、“フジテレビや日テレに勝つぞ! 俺ならできるはず!”と意気込むわけですが、本当に1年くらいで“あ、これは勝てない……”と絶望的な壁を感じるんです。もう気持ちよいくらいに負け続ける。大方の社員は感じていると思うのですが、挫折の連続です。

 でも、人間って挫折を経ることで、人に優しくなれたり、大人になったりするものだと思います。テレ東は他局に比べて、早い段階で大人にさせられる環境が揃っているんです(笑い)。一般の方に対する取材やアプローチの段階で、“人生って、働くって大変ですよね。分かります”と首肯(しゅこう)する。自然とテレ東らしさがにじみ出てくるのは、そういう経験が大きいと思いますね」

 その肯定する力は、『家、ついて行ってイイですか?』でも大切にしていると高橋氏は語る。

「この番組では、その人の“あるがまま”の魅力を引き出したい。そういうメッセージを込めて、ビートルズの 『Let It Be』を流しています。ついて行った人の魅力を引き出した上で、最終的にその人を肯定する。それがこの番組の核だと思っています。

 僕は担当ディレクターに、“その人がどういうところに幸せを感じているかが分かるように撮ってきてほしい”と伝えています。その人の人生はその人のもの。“どういう風に生きようとも、それはそれでいいよね”って肯定したいんですね。

 感動的に見えるかもしれませんけど、視聴者の皆さんも自分なりの幸せがあると思うし、特別なことではないはず。だからこそ、共感してもらえるのかなぁと。挫折もあるけど頑張っている自分もいる、ささやかな幸せがある。それはみんな同じだと思うんですね」

 最後に、「記録することはテレビの大きな役割」と高橋氏は付け加える。

「異種のものや違う価値観があることを伝えること、またそれらを記録して未来へ残すこともテレビの役割だと思います。

 この番組には、同性愛者、ギャル、バツイチ、子煩悩な人、鬼嫁、お金持ちからそうでない人まで様々な方が登場します。価値観が違う人を見ると人間ってどうしてもうがった見方をしてしまいがちですが、その人なりの事情があって一生懸命生きている。新聞やニュースでは取り上げられない、つまり歴史には記録されない。そんな普段はスポットライトを浴びないような人の素の記録だからこそ、価値があるのだと思います。

 100年後、平成時代には『家、ついて行ってイイですか?』という番組があって、それは『平成時代の遠野物語』ともいうべきものだ、と評されるような番組になれば嬉しいですね」

取材・文/我妻弘崇

4月からゴールデン(毎週土曜19:54~20:54)に進出した『家、ついて行ってイイですか?』。MCはビビる大木、矢作兼(おぎやはぎ)、鷲見玲奈アナ[写真提供/テレビ東京]
4月からゴールデンに進出した『家、ついて行ってイイですか?』。MCはビビる大木、矢作兼(おぎやはぎ)、鷲見玲奈アナ[写真提供/テレビ東京]

<番組情報>

「家、ついて行ってイイですか?」

テレビ東京 毎週土曜よる7時54分~8時54分