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 毎日のように痴漢被害に遭い、泣き寝入りし続けていたひとりの女子高生が立ち上がった。「被害に遭う前に痴漢を防ぎたい!」という切実な思いから『痴漢抑止バッジ』が誕生し、普及し始めている。

 歓迎の声がある一方で、批判の声、摩擦も届いた。痴漢抑止バッジを作った都内在住の高校3年生、殿岡たか子さん(仮名=17)はこう話す。

「カードに気づくと男性も女性も嫌そうな渋い顔をしました。電車に隙間があると、なるべく私との距離を取ろうとしているのがわかりました」

 カードは昨年8月以降、万里さんの小学校の同級生、松永弥生さんの手助けにより缶バッジに変身することになる。

「このやり方は、誰も傷つけない、痴漢冤罪や加害者を生まないいいアイデアだと思ったんです。同時に女子高生がカードをつけてひとりで電車に乗るのはいたたまれないと思いました。

 缶バッジにしたらつけやすいのではと殿岡さんに連絡をとり提案したところ、彼女たちにもその案があったみたいで、一緒にバッジを作ることになりました。プライバシーを守るため、2人を表に立たせるのは避け、私が『Stop 痴漢プロジェクト』の窓口となりました」

 プロジェクトのキャッチフレーズは“立ち上がれJK(=女子高生のこと)”。

「悪いのは犯人なのに、女性に頑張れというなんて……という批判の声も届きました。ですが私たちは、“社会や大人があなたたちを守るから、安心して立ち上がって”というメッセージを込めたつもりです」(松永さん)

 クラウドファンディング(※記事下参照)で資金を調達し、ネットで仕事を受発注する『クラウドワークス』を利用し、デザインコンテストを仕掛けることにした。(株)サーチフィールドFAAVO事業部、コミュニティマネジメントチームの田島実可子チーフは、すぐさま共感を表明した。

「男性への“痴漢は犯罪です”という主張にとどまらず女子高生の意思表示がなされていることに可能性を感じました。これまで痴漢犯罪に関しては、一方的に男性を悪いとする構図があったと思います。このバッジには“誰かを変える前に、まず自分たちが変わらねば”という女性の精神的自立を促し社会を動かそうという思いが込められていると思い、個人的にも賛同できました」

 資金調達は目標の50万円を大きく上回り、3か月で212万3000円、デザインは443点集まり、5点のバッジを製品化することができた。

 プロジェクトの第1目標は達成したが、痴漢がいなくなったわけではない。痴漢ゼロ社会の実現に向け松永さんらは今年1月15日に『一般社団法人痴漢抑止活動センター』を設立。松永さんが代表に就任し、活動の継続を確認し合ったという。

 痴漢抑止バッジをつけ女性記者(25)もラッシュ時の電車に乗ってみた。肩掛けカバンの取っ手付近にバッジを見つけた人は何らかの反応を示した。男性は距離を取ったり吊り革につかまろうとし、女性は周囲にいる男性の動向を気にして視線を動かす。

 痴漢との遭遇はゼロ。バッジの効果はテキメンで、周囲の人に“痴漢に間違われないよう気をつけよう”“痴漢が出るかもしれないから用心しよう”という意識を持ってもらえる効果ありと感じた。注意喚起と犯罪抑止という2つの効果。前出の埼玉県警・大渡副隊長も抑止効果に期待し、こう語る。

「非常に斬新。“痴漢を許さない”“泣き寝入りしない”と目に見えるかたちでの意思表明をすることで、相手が犯行に及ぶのを抑止できるのではないかと思います」