■非正規と正社員の格差を問い訴訟に

 だが、いまだ根本解決には至らない。コマース支部と会社との団交はじつに60回を超えたのに、いまだに同一労働同一賃金どころか、時給は1100円が上限と定められたままなのだ。賃金格差の是正などいつ実現するかわからない。

 ついに後呂さんを含めたコマース支部の4人は'14年4月1日、会社を相手どり、正社員との3年分の賃金格差を含む約4250万円の損害賠償を求め東京地裁に提訴した。

 これは、有期契約を理由に正社員との間に不合理な労働条件の格差を設けることを禁じた改正労働契約法('13年4月施行)を根拠とした初めての裁判になる。今月23日、いよいよ原告と被告の両者が証人尋問に立つ。

 非正規労働者が増えている以上、こういった労働者と会社との法廷闘争も増えるはずだが、前出・須田さんには懸念がある。

「解雇の金銭解決制度の導入です。例えば、不当解雇された労働者が法廷闘争で『解雇無効』と勝訴しても、会社がお金さえ払えば労働者を解雇できてしまう」

 これは、安倍内閣の諮問機関『規制改革会議』が3月25日、制度の導入をめざす意見書をまとめたばかりで、その運用次第では、会社側に解雇拡大の口実を与えかねない制度だ。

 これが適用されたら後呂さんたちはどうなるか。不安を覚えずにはいられない。

 非正規労働者の多くが思っているはずだ。もし政権交代が実現したらどうなるのかと。予想は難しい。最大野党である民進党内でもさまざまな意見があり、厚生労働省や総務省の体質も変わらない。だが、

「さすがに旧民主党も反省しているはず。これ以上、悪くならないことを期待したい」(佐々木弁護士)

 非正規労働の問題は人間の尊厳に関わる問題だ、と後呂さんは強調する。

「正社員とも仲よくやろうと思います。でも、ここまで差別的に苦しめられると、つい彼らを妬みそうになる自分に気づくんです。このままでは私の人格もねじれてしまう。だから裁判を通して、非正規労働者の尊厳が守られる制度ができれば……。それが私にとって勝利です」

 須田さんは、その心情をこう酌み取る。

「後呂さんがそこまでの気持ちをもつのは、彼女たちの責任ではない。同じ仕事をする労働者を分断する会社がいけないんです」

取材・文/樫田秀樹