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 緑豊かな東京・上野公園で、スマホを手にした観光客がつぶやいた。

「これが世界遺産? なんか地味だし、どこがすごいんだろうね?」

 その視線の先には……国立西洋美術館。 5月中旬、日本中がちょっと意外なニュースに沸いた。フランスが日本を含む7か国と共同推薦していた『ル・コルビュジエの建築作品-近代建築運動への顕著な貢献-』が、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関・国際記念物遺跡会議(イコモス)より“世界遺産に記載すべき”と勧告されたのだ。7月中に正式決定されることが濃厚だという。

 実におめでたいニュースだけど、日本で次に世界遺産になるかもしれないと言われていたのは『長崎の教会群とキリスト教関連遺産』だったような……。

 国立西洋美術館の副館長・山下和茂さんに素朴な疑問をぶつけてみた。

「世界遺産は各国政府が推薦するものなのですが、日本国政府として出していたのが長崎だったんです。ただ、イコモスからいい勧告が出そうになかったので取り下げました。国立西洋美術館は、フランス政府の推薦なんです。マスコミの注目も集めていなかったので、“ダークホース”と言われるのも無理ない話です」

 フランス政府から日本政府に、“世界に点在しているル・コルビュジエの建築物を世界遺産にしよう”と共同推薦の依頼が届いたのは'07年。それに日本政府が同調。表のとおり、イコモスから“記載延期”“不記載”などかなり厳しいジャッジをされたこともあったが、その都度、世界遺産委員会が押し戻すというやりとりが続いた。

「各国がイコモスから出される“宿題”に取り組み、推薦書のタイトル変更や構成資料の見直しなどを行った結果、今年の5月にイコモスから、かなりパーフェクトな“勧告”が出たんです。正直、驚きましたし、うれしかったですね」(山下副館長)

 そんな苦節を経て、いつ正式に世界遺産として登録されるのか?

「7月10日~20日に世界遺産委員会の会議がトルコ・イスタンブールで開かれます。協議の順番は、オリンピックの開会式のように、(国の)アルファベット順。日本は15~17日のいずれかだと聞いています」(山下副館長)

 この3日間のうち、どのタイミングになるかは明かされていない。そして、イスタンブールと日本との時差は6時間。吉報が真夜中に届く可能性も十分あるという。

 昨年、『明治日本の産業革命遺産群』が世界遺産登録された際は、韓国の反対から大騒ぎとなり、協議はいちばん最後にまわされた。このようなことは、まま起きるという。

 では、土壇場で“やっぱり世界遺産登録されない”という可能性も?

「それはわかりません。ただ、今回のコルビュジエの作品群については、政治的に文句をつける人はいないと言われています。審議がスムーズに進めば、登録されるはずなのですが、予想外のアクシデントがないとも限りませんので、予断は許しません。

 日本代表団の一員として馬渕明子館長も現地入りし、説明や質疑応答に臨みます。最大限の努力を払いますので、ぜひ応援していただければと思います」(山下副館長)