“痛い! 痛い!”と泣きながら七転八倒

一見しただけではわからない症状に苦しむ日々。伊藤維さんは「記憶がなくなってしまうのではないかと怖かった」
一見しただけではわからない症状に苦しむ日々。伊藤維さんは「記憶がなくなってしまうのではないかと怖かった」
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「高校を卒業したら海外にバイオリン留学がしたかったんです。それもできなくなりましたし、音楽学校では毎日5時間はおさらいをしなくちゃいけないんですが、腕も痛いし指も痛い。身体のあらゆるところが痛いのでベッドで休みながらの練習になる。おいていかれちゃうかもしれないと焦る気持ちはあるけれど、いまはこの状況で頑張るしかないのかなあ、と……」

 こう語るのは東京にある音大の3年生で、バイオリン演奏家の伊藤維さん(20)だ。

 維さんのワクチン接種は'10年7月、中学3年のときだった。母親の亜希子さん(仮名)が当時を振り返る。

「私のほうがいわゆる“がん家系”で、みんながんで亡くなっているんです。このワクチンを打てば絶対に子宮頸がんにならないと聞いて、“そんなにいいものがあるならば”と、飛びついてしまった」

 1回目の接種直後、注射をした左腕がパンパンに腫れ上がり、激しい痛みとしびれを覚えた。2か月後の2回目の接種では、それにしこりと倦怠感、足の痛みが加わった。不安を感じたものの、“3回打たなければ効果がない”という医師の言葉に従い、高校入学後の'11年4月、3回目を接種した。すると両足まで頻繁に痛みだし、歩行に支障が出始めるようになった。

 症状が劇的に悪化したのは'12年8月のことだ。知人の見舞いで病院に行ったところ、維さんは足の激痛で歩けなくなり、病院で車イスを借用して帰宅した。同年9月には総合病院で腰から下のCT撮影をしたものの、“異常なし”。

 だが、足の痛みはさらに悪化。“痛い! 痛い!”と泣きながら七転八倒し、ひとりではトイレも行けない状況になったという。

「学校の文化祭のあと、ものすごく痛くなって。階段があったんですが、そこから車イスで飛び込んで、自殺しようと思いました」(維さん)

 亜希子さんが車イスをあわてて押さえ、事なきを得たが、こうしたことが2回ほどあったという。

 '13年8月、国立精神神経医療支援センターを受診、佐々木征行医師より「子宮頸がんワクチン副作用の典型的な症状」と診断された。

 現在は、よくなったり悪くなったりの繰り返し。体調が安定しないので、先が見通せない。子宮頸がんワクチンの被害を訴える人に特有の状態にあるという。

「こうして取材を受けているいまも腰が痛いです。ものすごく悪いときは、痛みと全身脱力症状でスプーンも持てなければ、顔を上げることすらできません。それでも午後1時、2時ごろには回復してくるんですけど、この間はまったく治らなくて。夕方5時過ぎまで、母におんぶしてトイレに連れて行ってもらったほどでした」

 激痛は突然やってくる。だが、それがいつやってくるかはわからない。

 亜希子さんが声を振り絞るようにして言う。

「親がいるうちはいいんです。でも、そのあとは─? この体調では普通の仕事には就けません。裁判も、勝訴したいとかじゃなく、恒久的な支援が欲しいんです。裁判を通して、それを求めていきたいと思っています」