リオ五輪の卓球で2個のメダルを獲得した水谷隼。試合終了と同時にラケットを投げだし、喜びを爆発させた彼だが、そのガッツポーズの裏には、4年前のロンドン五輪から、卓球界に蔓延する、ある“不正行為”と戦ってきた積年の思いがあった。
団体戦決勝で、勝利した瞬間の水谷。相手選手からの初勝利に歓喜の表情

 試合が終了した瞬間、両拳を天に突き上げ、持てる力をすべて使い果たしたようにその場に倒れ込んだ。卓球のシングルスとしては、男女を通して、日本人初のメダルを獲得した水谷隼。

「その後に行われた団体戦でも、銀メダルを獲得。決勝戦のシングルスでは、これまで1度も勝ったことのなかった中国人選手を下す大活躍をしました。

 対戦した許昕選手は、ほか3人の中国人選手とともに、卓球界では“ビッグ4”と呼ばれる有力選手。彼はこの4人に対して、過去0勝33敗でしたから、今回の勝利はとても大きなものです」(卓球協会関係者)

 獲得した2つのメダルには、ただ試合でライバルたちに勝ったというだけでない、深い意味があった。

「卓球界には“不正行為”が蔓延しています。木のラケットにはゴムでできたラバーを貼りますが、そのラバーを貼るときに、ある“補助剤”を塗ると、打球のスピードや威力が増すのです。国際卓球連盟では、これを使うことを禁止しているのですが、日本以外の国の多くの選手が不正に使用していると言われています。水谷選手は、この不正行為の撲滅をずっと訴え続けてきたのです」(スポーツ紙記者)

 水谷は'12年の北京五輪後、補助剤の問題を世界に訴えるため、世界大会への出場を半年間キャンセル。選手生命を賭けた。しかし、それでも卓球界は変わらなかった。

「補助剤には危険な成分が含まれ、日本人選手が意識不明になるなどの事故も起こっています。水谷選手はロンドン五輪の直前に、国際卓球連盟に対し、補助剤の使用禁止の徹底を訴えましたが、状況は変わりませんでした。彼は不正なしでロンドン五輪に臨みましたが、結果はシングルスで4回戦敗退に終わりました」(前出・スポーツ紙記者)