治療後も『晩期合併症』の不安がつきまとう

筑波大学附属病院内の陽子線治療装置
筑波大学附属病院内の陽子線治療装置
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 治療環境が整備され、化学療法などの進歩・向上などにより子どもの約8割以上は回復するようになったという小児がん。だが、病児や家族には、治療後の不安が常につきまとう。

「子どもは治療の副作用による影響が非常に強い。放射線治療や抗がん剤治療によって『晩期合併症』を発症する可能性がある。X線も陽子線も放射線療法のひとつだが、X線では病巣を通り抜け奥の臓器を傷つけてしまっていた。

 だが陽子線なら病巣にのみ集中し照射することができる。身体への負担を減らし『晩期合併症』の発症率を下げることができ、2次がんの発症率は、X線と比べると3倍から15倍低いとの論文がある」

 櫻井センター長が指摘する『晩期合併症』。成長期に発症したがんや治療の影響で起こる後遺症で、身長が伸びない、肝腎機能の障害、不妊、知的障害と多岐にわたる。

 脳腫瘍の治療をした裕子さんも今、治療後の後遺症に向き合う。父の佐藤敏彦さん(48、仮名)は、後遺症についてこう話す。

「物忘れがあり、覚えておいてと話したことも、すぽーんと抜けてしまう。小学校6年生の漢字ドリルをやらせていますが、半分近く間違えています。これはこうだと教えてからやらせても間違える」

 学校でも授業についていけない。バドミントン部に所属していたが、現在は車イスでリハビリ生活を送っているためコートには立てない。

 自分の身体が、手術前とまるで変わってしまった……。一番つらいことは「私の希望どおりにうまくいかないことかな」と裕子さん。それでも将来はお父さんと同じ「コンピューターネットワーク関係の技術者になりたい」と夢見る。

「退院してからのほうが不自由を感じているみたいです。人の力を借りないと生きていけないという現実を、突きつけられた感じです」と敏彦さんは、娘が置かれた立場を思い、「将来就職したり、ひとりで病院に通ったりできるのだろうか。そんな漠然とした心配を抱えています」

 小児がんの支援・啓発を行う『がんの子どもを守る会』は今年6月、「小児がん経験者の就労を考える」をテーマにシンポジウムを開催した。

「目に見えない部分で晩期合併症を発症する方もいます。例えば作業が遅い、疲れやすいなど。周囲に理解されないもどかしさがあるようです」

 そう現実を伝える一方、こう付け加える。

「大勢の経験者が社会で活躍されていることを考えると、患者本人が健康面や働くうえでの適性を知り自分に合った働き方を考えることが大切」