私も大手生保や代理店で営業をしていた当時は、死亡・医療・介護など、目的に応じた保険活用を提案していました。しかし、大きな間違いでした。頭が悪い営業マンは顧客に余計な保険をすすめてしまう、と反省しています。

 入院時の費用は「医療保険」の給付金でなければ払えないのか、抗がん剤治療の代金は、「がん保険」の給付金でなければ賄えないのか、要介護状態になった時には「介護保険」の給付金以外に役に立たないのか、などと考えればわかります。

 おカネであれば何でも良いのです。親のおカネでも配偶者が稼いだおカネでも構わないはずです。臨時の出費を要する状況は、相当額のおカネがあれば乗り切ることが出来ます。おカネの出どころは関係なく「いくら出せるのか」が問題なのです。

 ただし、おカネの出どころは関係なくても、おカネを用意する際にはコストがかからないほど良いので、保険の利用は極力控える、ということなのです。

あくまで大金を用意するのに便利な手段

 3番目の貯蓄性については、もともと保険に求めなくていいものです。たとえば、1000円の保険料で1000万円の死亡保障を持てることがあるのは、保険料が、不幸があった人やその家族のために使われ、何事もなく過ごした人には返ってこないからです。つまり「掛け捨て」になるおカネが、加入者同士の「相互扶助」の仕組みを支えているわけです。

 これに対し、貯蓄は自分が積み立てたおカネが、将来、自分の役に立つ「自助努力」であり、助け合いの仕組みを必要としていないわけです。保険と貯蓄の関連で気をつけたいのは、有事に貯蓄を取り崩す不安に着眼することです。保険料の出費と貯蓄の取り崩しでは、後者のほうが「心の痛み」が大きいため、判断を誤りやすいのです。感情に焦点を当てるとおカネの扱い方を間違いやすい、保険はあくまで大金を用意するのに便利な手段、という認識が大切です。

「大金を用意する必要性の有無」で考えると、検討に値する保険は限られてきます。卑近な例で恐縮ですが、理由が明確なので、私自身の選択をご紹介しておきます。

 私は50代後半の自営業者です。妻と2人暮らしで、健康保険などの公的な保障は会社員より薄く、年収も貯蓄も同世代の平均以下、中央値にも届きません。それでも私は、民間の保険にはまったく加入していません。確率とコストを考えると、入らないほうが自分のためだ、と思うからです。