「緊急命令」と「非親告罪」も大きな変更点

 さらに小早川理事長は「のどから手が出るほど欲しかったもの」と願っていた「緊急命令」が出せるようになることを歓迎する。

 現行法では、警察が加害者に警告を出した後でなければ、公安委員会が「つきまといをやめるように」といった禁止命令を出せない。だが改正案では、緊急の場合は、公安委員会が警察の警告を経ずに禁止命令を出せるようになる。

「禁止命令を破ればすぐに逮捕ができますから、緊急性の高い事案には重要なものになってきます」と、小早川理事長。被害者が警察に被害届を出し告訴する親告罪から、その必要がない非親告罪になることも、大きな変更点だ。 

「親告罪だと、“俺を突き出しやがって”と逆恨みされるかもしれないと考え、ためらう被害者が多いんです」

 紀藤弁護士も、「『長崎ストーカー殺人事件』では本人ではなく家族(祖母と母)が殺されました。本人だけでなく、その周りの家族や知人に危害が及ぶ可能性が高い場合、被害者の意向とは別に、独自かつ早期に対応できることはいいことですね」と一定の理解を示す一方、

「警察が被害者の意向を無視して暴走すれば、冤罪が増える可能性もある。男女関係のもつれによるストーカー事件は多く、虚偽の証言をすることもある。そこは警察も、冷静に対応していく必要がある」

 と釘を刺すことを忘れない。

日本には「治療処分」の機能がない

 罰則も強化されるが、厳しくなっても「加害者が捨て身であれば、刑罰は意味がありません」と小早川理事長。警告・禁止命令・逮捕された後も、執着をこじらせるストーカーを大勢見てきた。

ストーカー加害者は警告や禁止命令を受けても、反省できない。(相手への)思いが残っているからです。警告は出たけど、その後のフォローがないために事件が起きることがあります。イギリスやオーストラリアなどでは、司法手続きの中で、裁判所命令で治療処分を実行する専門機関も設けられていますが、日本にはその機能がないのです」

 法整備の不備を指摘したうえで、小早川理事長は、

「禁止命令や警告の際に、心理や精神医学の専門家と面接することを義務化するべき」

 と提言する。