そんな生き物の大好きな女の子が花も恥じらう年ごろになり、お見合い話が持ち上がったのは18歳のとき。白羽の矢が立ったのは、幼なじみの菊谷静良さんだった。

幼なじみで夫の菊谷静良さん。「夫婦でおならの引っかけ合いをする(笑)」のだとか 撮影/竹内摩耶
幼なじみで夫の菊谷静良さん。「夫婦でおならの引っかけ合いをする(笑)」のだとか 撮影/竹内摩耶
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「静良はすぐそこに畑を作ってたの。小学生のときだったかな。桜の木さ登ってさくらんぼ取ってたら、おとさんがやってきて、“何やってんだ、じゃっぱ(おてんば)! おなごが木さ登っちゃダメだ!”って。木の上と下で、バカだのアホだの言い合ってケンカしたわけだ(笑)」

 親切で、困っている人がいれば手伝わなければいられない静良さんは、近所でも評判の人気者。菊谷さんとは気の置けない“ケンカ友達”といった関係。そんな静良さんが当時の菊谷さんのことを、

「おなごじゃっぱで、このへんの女親分。まさか一緒になろうとは思わなかった(笑)」

 一方、菊谷さんはといえば、降って湧いたお見合いの話に、思わず“わ(私)、この人と!?”とびっくり。

 だが、間に立った仲人さんが実にうまかった。菊谷さんが思わず食いついてしまうような“釣り糸”をたらしてきたのだ。

「昔だから新婚旅行なんてなくって、村でも誰も行った人がいないの。それで仲人さんが、“新婚旅行にやりますから”って言ってくれたもんだから、“だったら嫁に行く!私が新婚旅行第1号だわ!”と結婚したの(笑)」

 話は整い、にぎやかなことこのうえない祝言が終わったその翌日─。

“いざ新婚旅行に出発!”と意気込む菊谷さんを尻目に、姑は頭にさっさと風呂敷をかぶり、こう言ったという。

“さっ! 畑さ行って仕事だ、仕事!”

「結局、新婚旅行は畑。だまされてしまったの(笑)。まあ、昔はそういったもんだろな」

※「人間ドキュメント・菊谷節子さん」は3回に分けて掲載しています。