ちなみに孝介さんはワインよりも日本酒党だ。無理にワイン仲間に入る必要はなく、美香さんがワイン仲間と遊ぶ際には快く送り出してあげればいい。もちろん、孝介さんは実践している。

 美香さんの努力も大きい。孝介さんは北関東にある職場で働いており、ほぼ毎日残業がある。一緒に住むためには、美香さんが東京を離れるしかない。

「東京を離れることにはかなり抵抗がありましたが、実際に行ってみたら意外と通勤ができそうなことがわかりました」

 現在、美香さんは中距離バスで通勤をしている。早いときは5時20分発のバスに乗らないと間に合わない。帰りは18時40分に東京駅発のバスに乗り、料理を作って、孝介さんの帰りを待つ日々だ。

「最初の頃はお風呂に入らずに彼を待っていましたが、最近は眠くなってしまうので先に入らせてもらっています。お互いに体調がいいときは遅くまで晩酌しています」

彼という存在によって、理想の自分になれた

 孝介さんの両親と妹夫妻にも優しくしてもらっていると明かす美香さん。平日の通勤は大変だが、それを忘れるぐらいの幸せを実感している。

「誰もが『こうありたい自分』を持っていますよね。私の場合は、彼という存在によって理想の自分になれたと感じています。(内面が)ブラックじゃない自分でいられるんです。無理もしないし、誰かを否定もしない。以前に比べたら、他人に優しくなれました。彼は私のいい部分を伸ばしてくれる人なんだなと思っています」

 40代後半にして、誠実で働き者の同世代独身男性と出会って愛された美香さん。仲間たちからは「奇跡だ」と称賛されているらしい。筆者も彼女を強運の持ち主だと前述した。

 しかし、美香さんには信頼する人の助言に従って出会いの場に行く素直さがあった。交際してからは早い段階で両親と仲間たちに孝介さんを紹介する決断力を発揮し、結婚後は「中距離通勤」という代償を払っている。幸運を引き寄せ、それを生かすことができる女性なのだ。理想の自分になれたと語る美香さんの表情には一点の曇りもない。


《著者プロフィール》大宮冬洋(おおみや・とうよう)◎ライター。1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリングに入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。 著書に『30代未婚男』(共著、NHK出版)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』(ぱる出版)、『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました』(ぱる出版)など。 読者の方々との交流イベント「スナック大宮」を東京もしくは愛知で毎月開催。http://omiyatoyo.com/