しかし、「虐待はしつけの延長ではありません。まったく別ものです」と西澤さんは断言する。では、それぞれの定義とは?

「しつけは、セルフコントロールの力を養うこと。一方、虐待は英語だと“abuse(濫用)”。親が不安定な気持ちをぶつけたり、支配欲を満たすなど、自分の気分をよくするために子どもを利用していれば、それは虐待です」

 そして、体罰や怒鳴りつけるなど、子どもに恐怖を与えるやり方は、子どものセルフコントロールの力を破壊すると西澤さんは説明する。暴言や暴力により恐怖を感じると、感情などをコントロールする前頭前野がすくみ上がってしまうというのだ。

「そのときは言うことを聞いていても実は抑圧されただけ。セルフコントロールは学習できません」(西澤さん)

虐待してしまう親の背景とは?

 アドラー心理学のプロフェッショナルとして多くの親子を見てきた原田綾子さんは、子どもを怒鳴ったり、叩いたりする親は、自分が満たされていないことが多いと話す。

「人は自分が自分と関わるように、他人と関わります。つまり、子どもに“ダメな子!”と言う親は、自分自身のことをダメだと思っているのです

 西澤さんも「自己評価が低い親は、子どもが言うことを聞かないと、“自分は無能だ”と感じます。だから、力ずくでも言うことを聞かせるのですという。

 また、自身が子ども時代に体罰を受けて育った親は、自分自身の人生を肯定するため、「体罰を受けてよかった」と考える傾向が強いと西澤さんは話す。

 もうひとつ危険なのが、「自分の子どものことは、なんでもわかっている」と考えること。「子どもは自分とは違う、別の人間。上司や友人と同じく、言葉での対話が必要な相手です」(原田さん)

 親子関係に大切なものとして、西澤さん、原田さんが口をそろえるのが、安心感だ。安心感があってこそ、子どもはセルフコントロールを学習し、自立への一歩を踏み出せるというわけだ。