自身の「うつ」で7年間、服薬した経験から、うつは薬では治らないと気づき、現在「薬を使わない精神科医」として活躍中の宮島賢也先生に、上手なうつ対策を聞きました──。

〈前編〉では、薬に頼らずに、うつの原因を知り、その対処の方法を考えていくことの大切さを説明します。

 

抗うつ薬は“症状”を抑えるだけで、うつの原因は治せない

 現在、多くの精神科では、患者さんの症状を聞きながら「DSM-IV」という、アメリカ精神医学会が作成した診断基準(IVは第4版の意)に従って、「うつ病」の診断をしています。

「やる気が起きない」「食欲がない」「眠れない」「体重が減ってきた」「集中力がなくなってきた」「性欲が湧かない」「死にたい」などの項目のうち5つほどに該当し、それが2週間続いていれば、ほぼ間違いなく「うつ病」と診断されます。

「問題はそこからです」と言うのは、YSこころのクリニック院長・宮島賢也先生。

「精神科医の多くは、標準的な診療基準にあてはめてうつ病を診断します。そして、気分が落ち込むという“症状”を抑えるために薬を処方しますが、うつ病では、症状を起こす原因に目を向けない限り根本的な解決にはなりません。そのため、うつ病を繰り返したり、長引く人が増えてしまっているのです」

うつ病」では、一般的には脳の神経伝達物質のバランスを整えて、うつ改善を目指す「抗うつ薬」が処方されます。代表的なものに「SSRI」があり、これは感情や感覚を調整する脳の神経伝達物質「セロトニン」が不足しないように使われます。

 しかし、宮島先生は、このことにも警鐘を鳴らします。

「実は、精神科ではセロトニン異常がうつを引き起こすとの立場ですが、これはあくまでも仮説なのです。抗うつ薬は一時的な対症療法にすぎず、うつを根本から治すには、セロトニン異常を引き起こす原因そのものを取り除くことが大切です」

うつになる人は、うつになりやすい生き方や考え方をしている

 うつには、人それぞれ、さまざまな背景があります。

「うつになるのは、いまの生き方ではつらいというサインです。職場に原因があるのに無理に仕事に戻るようにプレッシャーを与えれば、やはり悪化してしまいますよね。いったん仕事を休むことになっても、家族の方はいまは休む時期と、おおらかに受け止め、焦らずじっくり向き合うことが大切です」(宮島先生)

 なぜ、うつになってしまうのでしょうか? うつは、その人の置かれた環境や性格など、さまざまなものがからみ合って起こりますが、ひも解いていくと、ゆがんだ親子関係や仕事のストレス、まじめすぎる性格などが浮かび上がってきます。

 最近のうつ病は、リストラや経済的負担などの社会心理要因や、人間関係による精神的ストレスに端を発するものが多いとみられています。また、核家族の中での家事や育児、お受験のプレッシャーなどが心の負担になっていることもあります。

 しかし、それは多くの人が経験することでもあります。大事なポイントは、“うつになる人は、うつになりやすい生き方や考え方をしている”ということなのです。

生き方や考え方というのは、親子関係が影響していることが多いです。まずは親子関係の見直しで大きく変わった方がいます。また〇〇しなければいけない、〇〇できなければならないという思い込みを変えるのもおすすめです

 と、宮島先生。プレッシャーやストレスを解消して、自分のやりたいことをしている人はうつになりにくいとのこと。もし、以下の「うつの原因になりやすいこと」に思い当たるフシがあれば、ぜひ解決の糸口にしてください。