酒場でときどきリリーさんと遭遇することがある。リリーさんは僕を見つけると「タコ社長!」と声をかけてくれ、高いウィスキーを一杯奢ってくれる。その店によくいるので映画『男はつらいよ』のタコ社長のようだという。それを言うならリリーさんは寅さんである。

 酒席にふらっと現れ、周りの人たちを楽しませ、気がついたらもういない。

 自由であり不良であり知識人であり常識人である。『憧れ』とは、その人に近づきたいと思い、そこに近づききれない距離感のことを言う気がする。同じ時代に生きていて、その人が次に何をするのかに寄り添いながら生きる。

 僕が今日、何を書きたかったのか。

 それは世の中にお手本が必要だということ。お手本がいればそれを目指し、その業界は活気づく。最初は真似っこ、コピーだが、次にアレンジが生まれ、その先にオリジナリティが生まれる。お笑い芸人、ミュージシャン、物書き、各世界に強烈なお手本がいることが大切だ。僕にとってそれがリリー・フランキーである。

【プロフィール】
◎樋口卓治(ひぐち・たくじ)
古舘プロジェクト所属。『中居正広の金曜のスマイルたちへ』『ぴったんこカン・カン』『Qさま!!』『ぶっちゃけ寺』『池上彰のニュースそうだったのか!!』などのバラエティー番組を手がける。また『ボクの妻と結婚してください。』など小説も上梓。9月15日に4作目『ファミリーラブストーリー』(講談社文庫)が発売。映画『ボクの妻と結婚してください。』が全国東宝系で公開中。