法案成立で'21年度から賃金の下落に連動

 しかし、年金の仕組みってそもそも、わかっているようで正直よくわからない。岐阜大学の大藪千穂教授(生活経済学)にやさしく説明してもらった。

「日本の年金制度は世代間扶養です。働いている現役世代が払う年金保険料で、現在の高齢者世代を支えています。自分で払っている年金を将来、自分で受け取ると勘違いしている人が多い。少子高齢化が進み、1人の高齢者を支える現役世代の人数が減りました。騎馬戦の騎馬と同じで支えきれなくなり、年金支給額を下げるために'04年から『マクロ経済スライド』を導入したんです」(大藪教授)

 年金保険料を払う現役世代の人数は少なくなった。一方で年金を受け取る高齢者の平均寿命は延びた。厚労省が7月に発表したデータによると、'15年の日本人女性の平均寿命は87.05歳で同男性は80.79歳。いずれも過去最高を更新した。

 マクロ経済スライドはこうした現況に合わせて年金支給を減額する仕組みという。物価や賃金の伸びよりも年約1%ずつ伸び幅を抑えることで年金制度を守る狙いだ。

「前提として、例えば現在の100万円が20年後、30年後も同じ価値があるかわかりません。しかし、年金は同等の価値がないと困るので物価スライドさせてきましたが、その余力がなくなったんです。ただし、物価が上昇して賃金が下がった場合は、年金支給額は下げずに据え置かれていました。年金制度改革法案が成立すれば、'21年度からは賃金の下落に連動して減額されます」(大藪教授)

 物価下落時で賃金がもっと下がった場合は、下落幅の大きい賃金に合わせて減額されることになる。さらに物価が下がった場合はマクロ経済スライドは発動しないが、'18年度からはキャリーオーバーされ、のちに物価が上がったタイミングで発動される。

「そのときは年金支給額を下げないので、あとでまとめてもらうよということ。最終的には下げなかった分も取られます」(大藪教授)

【今回の制度改革が実現したときの年金カットのパターン】

<ケース1> 物価は上がり、賃金は下がった
(今)生活が大変なので年金給付額は据え置き
(新)賃金は下落したのだから年金給付額も削って計算し、あとでまとめて削る

<ケース2> 物価は下がり、賃金はもっと下がった
(今)下げ幅の大小に関係なく物価下落に合わせて削る
(新)下げ幅の大きいほう(賃金)に合わせてガッツリ削る

 これでは、年金が削られるだけの話としか思えない。

 安倍首相の言う“将来の年金水準確保法案”は本当か。