『兵士A』の発表後、七尾旅人のライブにシニア世代の姿が増えたという
『兵士A』の発表後、七尾旅人のライブにシニア世代の姿が増えたという
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本土で暮らす僕たちの無意識が反映されている

 沖縄・高江とのつながりも音楽を通じた出会いから生まれた。

「'06年にライブをしに初めて行ったんです。僕を呼んでくれた高江在住のミュージシャン・石原岳さん一家がよくしてくれて、4人の子どもたちは本当に愛くるしい。そんな彼らとの友情が大きいです」

 沖縄県北部に位置する高江地区は、すぐそばに広大な在日アメリカ軍北部訓練場が横たわる。この一部を返還する条件として'07年以来、ヘリパッドの建設工事が断続的に強行されてきた。

「人口150人に満たない集落に全国から集めた1000人規模の機動隊を常駐させて工事に反対する方々を強制排除したんです。不当逮捕を繰り返し、座り込んで抗議していたおばあさんにケガまでさせて。こんなこと、国会前だったらできませんよね。人々の目が届きづらい場所では、その国の本性が現れてくる

 ヘリパッドは豊かな熱帯雨林を取り囲むようにして完成。「墜落」による停止からわずか6日で飛行を再開したオスプレイも使用できる。

「周囲に日差しを遮るものはなく、夏は炎天下に何時間も立ちっぱなし。しかも那覇からは車で3時間の距離。でも沖縄のお年寄りってタフで、どうしても止めたいと自分の意志で高江に来るんです。沖縄戦の記憶があるから

 そうした市民に対し、大阪府警の機動隊員が吐いた「土人」の暴言は記憶に新しい。

「厳しい言い方をすると、沖縄への潜在的な差別意識の表れ。別の言い方をすれば単に無知だから。僕も現場で何度か対峙して、なかには驚くほど攻撃的で無作法な隊員もいますが、ほとんどは普通の人。沖縄や基地の歴史について何も知らず、ただ命令されたから来ている。良心を痛めている隊員もいるでしょう」

 七尾は、「“土人発言”は重要な問題だけど」と前置きしつつも、注意深く言葉を選んでこう続ける。

隊員を派遣しているのは本土。日本列島で暮らす僕たちの無意識が反映されている。米軍基地は日本の安全保障をめぐる問題でもあるのに、なぜ沖縄にすべてのしわ寄せが集中しているのか。そこに至る歴史はもっと知られてほしいし、本土の人間は学ばなければいけないと思うんです」

 本土の無関心は、沖縄に対してだけではない。

「自分たちが戦後歩んできた道のりにも関心が薄い。太平洋戦争については“民衆は軍部の暴走に巻き込まれた被害者”という認識だろうが、当時の日本には、ガンガン攻め込んで領土を広げてほしい、戦争で停滞感をリセットしたいという潜在的な欲望もあったのでは。再びリセット願望が強烈に高まっている今、よくよく足元を見ておかないと間違った方向へ進んでしまう」

 それでも悲観はしていない。こんな確信があるからだ。

「歴史上、どんなに過酷な場所でも子どもたちは夢を見るし、創造性を発揮して素晴らしい音楽や、新しい何かを生みだす。大人が怠けて、めちゃくちゃな国になっていたとしても……。ただ、本当にそれでいいのか? 音楽の現場でそう問い続けることが、表現をして作品を生み出す人間の役目だと思っています」

<profile>
98年のデビュー以来、9・11をテーマにした3枚組アルバム『911fantasia』、メロディアスな『サーカスナイト』など、ジャンルを超えた多彩な作品を世に送り続けている。

※『兵士A』はDVD/Blu-rayで発売中。
※1月8日(日)に『東京キネマ倶楽部』で『ワンマンツアー「歌の大事故」』東京公演を開催。詳細はDUM-DUM LLPのHPで。
http://www.dum-dum.tv/html/topic55.html