2015年、稲垣吾郎主演の舞台『NO.9ー不滅の旋律ー』が上演された時のことだ。どうしても観たい衝動にかられた私は、チケット入手を試みたが、前売りは完売。あきらめられず粘ったところ、北九州公演のチケットを1枚手に入れることができた。しかも、千秋楽。

 こんなに執着したのは初めてのことで、まるで愛する女性を追いかけるように、朝一番の便で北九州に飛んだ。

 舞台は想像を遥(はる)かに越え、面白く、心をゆさぶられた。稲垣吾郎しか演じられないはまり役だと思った。

 千秋楽ということもあり上演後、拍手は鳴りやまず、スタンディングオベーション、喝采の嵐だった。

 観劇後、ご挨拶しに楽屋へと向かう。きっと俳優とスタッフが興奮冷めやらぬ様子だろう……。こんな時に楽屋に行くのは正直気が引けた。パッと挨拶をしてすぐに帰ろう……。

 しかし、北九州公演ということで、東京から来た人は私一人。すなわち、楽屋を訪ねたのも私一人だった……。

 このタイミングでお邪魔するのは、新興宗教の勧誘並みの鬱陶(うっとう)しさがある。

 うつろな気持ちで、楽屋の前で待っていた。そこにメイクを落とした稲垣吾郎が現れた。

 素直に感想を伝え、すぐにおいとましようと、口を開いたとき、「ゴロウ・デラックス、あのテーマ面白かったですね」と稲垣吾郎が先に口を開いた。

 パードゥン? なんでこのタイミングで番組の話なんだ?

 座長として、たった今、千秋楽を終えたばかりなのに……。

 そんな我が道をゆく、稲垣吾郎という星の瞬きに心底、憧れる。

【プロフィール】
◎樋口卓治(ひぐち・たくじ)
古舘プロジェクト所属。『中居正広の金曜のスマイルたちへ』『ぴったんこカン・カン』『Qさま!!』『ぶっちゃけ寺』『池上彰のニュースそうだったのか!!』などのバラエティー番組を手がける。また『ボクの妻と結婚してください。』など小説も上梓。9月15日に4作目『ファミリーラブストーリー』(講談社文庫)が発売。映画『ボクの妻と結婚してください。』が全国東宝系で公開。