コーヒーの味は「コーヒー豆」や「焙煎」などに左右される。ドトールの場合、コーヒー豆はブラジル、コロンビア、エチオピアなど世界20数カ国から輸入している。だが、買い付けを現地の会社や商社にただ任せることはしない。自分たちの目と舌で豆を確かめ、時には現地に足を運び、直接、品定めをする。

 ドトールのクオリティにふさわしい豆を生産するエリアを指定したり、さらにピンポイントに農場や品種、コーヒーの木を指定して輸入したりすることもある。こんなことをしてコーヒー豆を買い付けているケースは、世界にもそうそうないという。

 輸送にもこだわる。赤道直下を船が通るため、船底指定で運ぶ。これをやらないと豆が汗をかいてブヨブヨになり、ひどい状態になりかねないらしい。コーヒーは、デリケートな素材なのだ。だから、日本に届いてからも、つねに一定の温度を保つ定温倉庫に入れる。コーヒー豆に定温倉庫、というのは、かつては仰天の発想だったという。

何杯飲んでも胃がおかしくならない鮮度

 そして、保管されているコーヒー豆は、その日に使う分だけが毎日、焙煎工場に運ばれる。コーヒーの味を左右する要素の1つである「焙煎」後の豆の鮮度のコントロールにも、工夫が凝らされている。基本的に、全国のお店からオーダーをもらった分だけ、工場でコーヒー豆を焙煎する。お店は基本的に、古い豆の在庫を持たない。

 たとえばお店が月曜日に発注すると、工場が火曜日にデータをまとめ、朝から焙煎して夕方には出荷される。しかし、店舗に直送はされない。1度、ワンクッションが置かれるのには、理由がある。焙煎したてのコーヒー豆は、ガスが出て抽出が安定しないから。最も飲み頃になるタイミングで届くよう、調整される。

 店舗から毎日のオーダー生産。おいしいタイミングでの配送。同様の取り組みをやっている会社は、ほぼ皆無だろうとみられている。それこそ多めに焙煎しておけば、在庫切れも起こさずに済むように思えるが、それはしない。焙煎した豆は、どんどん酸化していってしまうからだ。

 コーヒーには15%前後の油脂分があり、空気に触れると酸化現象が起こる。これが、コーヒーの味を落とす。コーヒーを飲むと胃が痛くなる、というのは、酸化してしまったコーヒーだったからではないか、と取材で聞いた。毎日、何リットルも飲んでいるドトールの工場の焙煎士が、胃をおかしくすることなど、まったくないという。