眠っていない子ほどテストができない

 脳の機能が低下し日常生活に支障をきたすことも。

「まず、単純作業の能率が下がり、根を詰めた仕事や作業もだんだん持続しにくくなる。集中力や注意力、記憶力が低下し、ミスをしやすくなります」

 東洋羽毛工業株式会社の睡眠健康指導士・金子勝明さんから衝撃のデータが明かされた。

「人間は目覚めて15時間後に注意力のテストを実施すると“酒気帯び運転”、18時間後だと“酒酔い運転”に近いレベルを示すという調査結果もあります。テスト期間は一夜漬けするよりも、1度寝てから早起きして勉強したほうが記憶も定着するということです」

 実際に、睡眠不足の子どもほど成績が悪い。

 ’14年に改定された厚生労働省の『健康づくりのための睡眠指針』では、不規則で遅い就寝や起床が成績の低さと関係している旨が指摘されている。広島県教育委員会が’03年に行った調査では、小学5年生を対象に国語と算数の試験結果と睡眠時間を調べたところ、睡眠時間が5時間以下の場合、国語の平均が51・9点、算数が53・9点。9時間以上10時間未満の場合、それぞれ70・3点、73・7点。差は歴然だった。

 睡眠時間が長い子どもほど、ものを記憶するのに重要な役割を果たす「海馬」が大きく成長するという研究結果もある。

心が壊れてうつになることも

 睡眠不足は、精神面にも悪影響を及ぼす。リハビリテーションの専門職である作業療法士として、患者に睡眠指導も行う菅原洋平さんによれば、

「人は眠ることで、記憶や感情を整理します。特にレム睡眠時(浅い眠りのとき)、夢を見ながら感情を消化しているといわれています」

 睡眠時間が少なければ、心のメンテナンスが滞る。

「イライラや不安感、無気力感に襲われるだけでなく、神経症やうつになりやすくなるのです」(前出・渋井先生)

 知れば知るほど、睡眠不足の弊害は大きい。

〈プロフィール〉
渋井佳代先生◎スリープクリニック銀座院長。睡眠医療認定医。信州大学医学部卒業後、国立精神・神経センター国府台病院精神科睡眠外来などを経て現職。特に女性の睡眠障害に詳しい

菅原洋平さん◎作業療法士。ユークロニア株式会社代表。民間病院精神科を経て国立病院機構で脳のリハビリテーションに従事。脳の回復には睡眠が重要であることに着目し臨床実践

金子勝明さん◎睡眠健康指導士、睡眠環境・寝具指導士。東洋羽毛工業株式会社で営業企画や分析のみならず、眠りの研究を続け、睡眠講座の講師として全国を行脚