この時点では国は獣医学部の新設を認めていない。しかし4日後、政府の国家戦略特区諮問会議(議長・安倍首相)は「広域的に獣医師を養成する大学などの存在しない地域に限って獣医学部新設を認める」と特例を設けた。今治市が加計学園を引っ張り込む構想はこの特例にピタリと合致する。安倍首相が昭恵夫人、加計孝太郎氏らと東京・宇田川町にある予約の取りにくい超人気店『炭火焼肉ゆうじ』で約3時間会食したわずか1か月後のことだ。タイミングがよすぎる。

 全国の獣医師を束ねる社団法人『日本獣医師会』(東京都港区)の境政人・専務理事は「直接、反論の機会をいただきたかった」と残念がる。

「やむなくパブリックコメント募集に反対意見を寄せました。全国55獣医師会と獣医系の全16大学学部長などに将来を見据えて意見を出すよう求めたところ、83%が反対意見を寄せたことがわかりました。しかし、決定は覆りませんでした」と境専務理事。

 同会によると、'14年12月末時点の獣医師は全国で3万9098人。犬、猫などを診療する動物病院の医師や、牛、豚、鶏などにかかわる産業動物医が約半数を占め、伝染病の防疫などに携わる公務員獣医師が24%と続く。

「獣医師は足りています。どの大学も全国から学生が集まり、卒業して全国へ散ってゆく。地域特区にはなじみません」(前出・境専務理事)

 獣医学部新設の意義について国家戦略特区諮問会議の委員は「国際水準の獣医師を育てる」「バイオサイエンスや創薬に取り組む」などと展望を語ったとされる。しかし、「既存の16大学ですでに取り組んでいることばかりで新味はない」(境専務理事)という。

市の広報誌で紹介している岡山理科大学獣医学部の完成予想図

今治市に聞く

「でも、西日本には私立の獣医学部はない。市は1975年から大学誘致に取り組み、'83年には無償譲渡を前提にしていた。全国の大学にアプローチしては振られてを繰り返し、小泉元首相の構造改革特区のころから15回チャレンジしてきた。加計学園が“獣医学部ならば”というので規制緩和を求めた」(今治市企画課)

 では、大盤振る舞いを決めたのはなぜか。

「四国にある大学の入学定員充足率は89%と低く、市内には短期大学が1校あるだけ。若者は18歳になると市外、県外に出てしまい、消滅可能性都市に名前が挙がったこともある。そんな現状で大学を誘致するにはインセンティブ(報奨)が必要」(同課)

 この案件は開会中の定例市議会初日の3日、特別委員会と本会議で賛成多数でスピード可決された。本来は委員会で時間をかけて審議し、最終日に本会議で採決するのが筋。森友学園問題がヒートアップする中、そそくさと可決した感は否めない。

 共産党の松田澄子市議は、

「特区特別委員会で全11議員中、反対したのは私だけ。“市有地の無償譲渡は市民が納得しない”と言ったけれど、採決を急がれた」と憤る。