きっとテレビをわかっているのだ。

「わかっている」というのは「テレビを好き」という意味で、常に視聴者の視点でいられること。これもまた才能。

 台本を読むことがゴールではなく、人を楽しませるのがゴールなのだ。

 多分、有働アナは自分が傷ついたとき、テレビやエンタメに助けられたから、自分もそんな落ち込んでいる人に向けてテレビに出ている気がする。

 著書『ウドウロク』(新潮社)に、かつて売春、覚せい剤に手を染めたことのあるAちゃんという、高校生に取材をしたときのエピソードが書かれていた。Aちゃんに「売春はやめたほうがええで」という言葉をぶつけたとき、「なんで?」と聞き返され、言葉に窮したという。Aちゃんは売春することで母親に仕送りをしてきた。そんなAちゃんに、なんの疑いもなく自分の常識をぶつけ同意を求めた。その日から、自分の言葉を疑った。

 以後、有働アナの言葉はAちゃんとの出来事の同心円から発せられる、責任のある言葉たちなんだろう。

 テレビは社会を映す鏡である。

 その鏡にはいつも自分が映っていて、それを知った上で放送を続ける、送りっ放しのメディアであることを、有働アナのひょうきんなふるまいから感じる。

 それが、今回、NHKアナウンサー・有働由美子さんを勝手に表彰した理由である。

 

【プロフィール】
◎樋口卓治(ひぐち・たくじ)
古舘プロジェクト所属。『中居正広の金曜のスマイルたちへ』『ぴったんこカン・カン』『Qさま!!』『ぶっちゃけ寺』『池上彰のニュースそうだったのか!!』などのバラエティー番組を手がける。また小説『ボクの妻と結婚してください。』を上梓し、2016年に織田裕二主演で映画化された。最新刊は『ファミリーラブストーリー』(講談社文庫)